すべての貝の形は、同じ「法則」で作られているのをご存知か?

実は2枚貝も巻貝も「同じ形」

巻貝の巻き方

さて、ひねりの意味が分かったところで、アンモナイトっぽく丸まった円錐にひねりを加えていこう。下図のように、ひねりを入れていくと、円錐の頂点がZ軸方向にずれていき、我々が良く見る巻貝っぽい形になるのが解る。

【図】丸まった円錐にひねりを加えるとどうなるか丸まった円錐にひねりを加えると巻貝っぽくなる。なお、Shell Sbape Generatorの図は、標本に合わせて実際の作業で得られた像を反転した(写真・アメリカヒラマキガイ、クチキレヤマタニ 、コケミミズガイ:微小貝ホームページ、ヤマタニシ:長崎・五島列島 福江島の博物誌)

ひねりを入れすぎると、螺旋が分離してしまい、とぐろを巻いたひも状の形になるが、ちゃんとその形の貝がいるのが面白い。

巻きの強さのバリエーション

巻貝には、巻きのゆるいものから、巻きのきつい尖った形態のものまで、いろいろなバリエーションがあるが、その「尖り方」は、曲げ角とひねり角を同時に大きく(小さく)していくことで、任意の値に調節することが可能だ。実際、この操作だけで、ほとんどの巻貝を作ることができる。

  巻貝の「尖り方」は、曲げ角とひねり角の大き佐野違いだということがわかる。なお、Shell Sbape Generatorの図は、標本に合わせて実際の作業で得られた像を反転した(写真・ヤマタニシ:長崎・五島列島 福江島の博物誌、ウネナシイトカケ、ハリオレガイ:微小貝ホームページ)

2枚貝の作りかた

さて、この方法で巻貝を作れることは、おおよそ想像がつくと思うが、それが2枚貝まで、となると、正直、意外な人が多かったのではないだろうか。以下、2枚貝の作り方である。

まず、円錐を思いっきり平たくする。カサガイよりも、もっとずっと平たくして、平面に近いぐらいに。次に曲げ角を少しづつ大きくしていく。頂点が底面の中心にあると、ちょっと変わった形(左下)。残念ながら、この形の貝は存在しない。

だが、ここで、マイナーな変形要素の1つである「頂点を横にずらす」という操作を入れる。(ソフトではside shift)少しずらすと(中央)それっぽい形のカサガイができ、思いっきりずらすと(右)、なんと、2枚貝にそっくりな形となる。(是非、ソフトを操作して、ご自分で作ったものをぐりぐり動かしてください。)

【図】2枚貝ではどうか
  巻2枚貝では曲げ角と頂点の位置によって形が決まる。2枚貝も、平たいとはいえ、円錐が基本だ(写真・オクダカスカシガイ:微小貝ホームページ)

なんと、2枚貝も、他の貝類と全く同じ仕組みで作られていたのである。

開口部の形、曲げ、ひねりの角度の変化

以上、基本的なパラメータの変化で、貝の形の基本形が作れることをわかっていただけたと思う。もちろん、実際の貝殻の形は、上記のソフトで作れる範囲よりも、はるかにバリエーション豊かだが、それについても、基本構造は共通である。

上記3つ(+1)のパラメータ以外に、見た目の影響が大きいものは、円錐底面の形である。円錐底面を、実際の貝殻の開口部の形態に似せるだけで、下図のような、よりリアルな形の貝が簡単に作れるのである。

  円錐底面を実際の貝殻の開口部の形態に似せることがコツ(なお、ソデボラを模したShell Sbape Generatorの図は、標本に合わせて実際の作業で得られた像を反転した)

この操作で、ほぼ95%くらいの貝の形は、このソフトで網羅できる。とげとげのある貝なども、開口部の形が「周期的に変化する」とすれば再現できるので、大丈夫だ。
最後に残るのは、「パラメータの値が途中で変化する場合」である。例えば、こんなアンモナイトの場合。

  日本近海に生存していたニッポニテスは、アンモナイトの奇形種と考えられていたが、巻き方に規則性があることがわかり、現在はアンモナイトの亜種であるとされる(写真・日本古生物学会  ニッポニテス3D化石図鑑)

これが、どんな仕組みで作られているか、気になるところであるが、ちょっと話が長くなるので、それはまた別の機会に。

形を決めるのは「物理的な制約」だった!

さて、ここまで読んでいただいた読者の皆さんには、貝の形の多様性とはどんなものなのか、実感していただけたと思う。貝の形には素材と成長に起因する制約があり、その制約の中で、進化があらゆる可能性を試した結果なのである。どのパラメータを動かしても、ほとんどの場合、それに対応する実在の貝がいることから、進化は、可能なあらゆる可能性を試していることが解る。

しかし、その制約の外側にはみ出すことはできない。言い換えると、形のバリエーションを決めているのは、「物理的な制約」の方であり、進化は、その中の可能なパターンの1つを選ぶことしかできないのである。

また、その「物理的な制約」には、一般性がある。貝殻の形以外の現象であっても、「底面(開口部)を継ぎ足して成長」という条件を満たせば、全く同じことが起きるのだ。例えば、下の羊の角である。角の表面は固いので変形できない。

だから、角を伸ばしていくには、頭についている基部を継ぎ足すよりほかはなく、これは、貝殻とほぼ似た条件である。だから、バリエーションを作るには、頂点角、曲げ、ひねり、底面の形、などを変える以外にないため、同じソフトで角の形を再現できる。


貝とほぼ同じ条件である羊の角でも再現可能だ(写真・gettyimages)

実のところ、理屈としては、らせん状の形態を作る方法は、ほとんど、これしかないのである。

だから、みなさんが、もし、自然界に何からせん状の形を見つけたら、たいてい、このソフトで作ることができるはず。いろいろな貝の形を再現するのも楽しいが、それ以外のものが、この原理で作れるとなお楽しい。是非チャレンジしてみることをお勧めします。夏休みの自由研究にもピッタリです。

今回使ったソフトは、上の写真にある異常巻きアンモナイトの謎を解くために考案された「管成長モデル」というアイデアを基に作成している。愛媛大学教授の岡本隆先生により30年以上前に考案されたものだが、貝の形を理解するためにどれだけ有効であるかは、わかっていただけたと思う。

管成長モデルは、貝類の形態研究における世界的なスタンダードとなっており、日本が世界に誇れる生物学的な成果の1つである。

.navContents .navContents_genre ul li:nth-child(1){ background-image: url(https://gendai-m.ismcdn.jp/mwimgs/b/5/-/img_b5e617833eedeaae7025842662ab132b647.png); } .navContents .navContents_genre ul li:nth-child(2){ background-image: url(https://gendai-m.ismcdn.jp/mwimgs/2/5/-/img_2540ff88c35e25062301549b5eb16b52324.png); } .navContents .navContents_genre ul li:nth-child(3){ background-image: url(https://gendai-m.ismcdn.jp/mwimgs/a/7/-/img_a7ba7310c85ff6d811201aa807669020476.png); } .navContents .navContents_genre ul li:nth-child(4){ background-image: url(https://gendai-m.ismcdn.jp/mwimgs/e/b/-/img_eb63fc75c067be2b4e346d1177dd646b453.png); } .navContents .navContents_genre ul li:nth-child(5){ background-image: url(https://gendai-m.ismcdn.jp/mwimgs/a/b/-/img_abe953ea8bbeca517ca1c1e8aea20264478.png); } .navContents .navContents_genre ul li:nth-child(6){ background-image: url(https://gendai-m.ismcdn.jp/mwimgs/4/4/-/img_44a09474c6909310bd77737b2cf0d164611.png); } .navContents .navContents_genre ul li:nth-child(7){ background-image: url(https://gendai-m.ismcdn.jp/mwimgs/0/a/-/img_0a2be7b2a33731b20cea2350fd4ae90a628.png); } .navContents .navContents_genre ul li:nth-child(8){ background-image: url(https://gendai-m.ismcdn.jp/mwimgs/7/e/-/img_7e673dc9fefd51d9536a14475d3d9aee610.png); } .navContents .navContents_genre ul li:nth-child(9){ background-image: url(https://gendai-m.ismcdn.jp/mwimgs/a/f/-/img_af821209af9c81edad6dc63aa854b0fb368.png); } .navContents .navContents_genre ul li:nth-child(10){ background-image: url(https://gendai-m.ismcdn.jp/mwimgs/f/0/-/img_f072464bf99bcf4d42f011c34e4f8de1479.png); } .navContents .navContents_genre ul li:nth-child(11){ background-image: url(https://gendai-m.ismcdn.jp/mwimgs/d/a/-/img_da7b1bac2e3db43a4d2760193fcfa9d8558.png); } .navContents .navContents_genre ul li:nth-child(12){ background-image: url(https://gendai-m.ismcdn.jp/mwimgs/4/3/-/img_435be9c5b352044abf14eecffa80b28d542.png); } .navContents .navContents_genre ul li:nth-child(13){ background-image: url(); } .navContents .navContents_genre ul li:nth-child(14){ background-image: url(); } .navContents .navContents_genre ul li:nth-child(15){ background-image: url(https://gendai-m.ismcdn.jp/mwimgs/a/b/-/img_ab53ea5ead6f29fedf249c9d00da02ca567.png); }
  • 【新刊案内】統計ソフト「R」超入門〈最新版〉
  • 【新刊案内】DEEP
  • 【新刊案内】時間の終わりまで
  • 【新刊案内】6月の予定
  • 【新刊案内】複雑系入門
  • 【新刊案内】からだの錯覚
  • 【新刊案内】自律神経の科学
  • 【新刊案内】元素118の新知識
  • 【新刊案内】
  • 【新刊案内】宇宙検閲官仮説