不良から成り上がった「頭脳派」
未来は実際に“不良”だった。地元である愛知県豊橋市で、ケンカ三昧の少年時代を過ごした。結果として、彼は少年院で1年以上過ごすことになる。売られたケンカはすべて買い、暴走族50人を相手に2人で立ち向かったこともあるというから凄まじい。選手としてのキャッチフレーズどおり、まさに“路上の伝説”である。
とはいえ“悪いこと”がしたかったわけではないようだ。彼が求めたのは理不尽な上下関係に抗う強さであり自由だった。暴走族に入ったのも「暴走族の連中とタイマンするため」だと著書『強者の流儀』(KADOKAWA)で語っている。そもそも暴走族は嫌いだった、とも。なぜなら「集団で1人を虐めるような卑怯者の集団」(同書)だからだ。
未来は単に強いから、試合で勝ったから人気が出たというわけではない。不良、ケンカ、『THE OUTSIDER』からの成り上がりというストーリー性があるのだ。
しかし繰り返すが格闘技はケンカではない。未来のストーリーから、リング上でも“ケンカ屋”なのだろうと思う人がいるかもしれないが、決してそうではない。むしろ実際の彼は“頭脳派”のファイターだ。相手を徹底的に研究し、戦略を練り、それを着実に遂行する。派手なKOも高度な戦略が生み出したものだ。
「(相手の分析は)得意なほうですね。だから試合では思い通りの展開になることが多い」(昨年のインタビューにて)
たとえば、RIZINでの初戦(2018年8月)である。相手は日沖発。総合格闘技の老舗・修斗で世界王者となり、世界最大の総合格闘技イベントUFCに参戦したこともあるベテランだ。当時の未来にとっては、はるかに格上の相手と言ってよかった。だが、未来は1ラウンドでTKO勝利を収めてみせる。
寝技の巧さで知られる日沖に対し、スタンドの打撃戦で負けることはないと踏んだ未来は序盤からパンチで先手を取っていく。ボディへの攻撃を多用したのは、日沖がタックルで胴体に組み付いてくることへの対策だった。
フィニッシュは日沖の頭にヒットしたミドルキック。普通はボディに当てる蹴りだが、日沖がタックルにいこうと態勢を低くしたところに決まった。未来にとっては、まさに狙い通りの“下剋上”だったわけだ。