どんなモノを選び、買うか
消費者が担う、未来への選択
旅の途中、RSPO認証油を生産する農園を訪ねた。化学肥料は使わず、搾油後のアブラヤシを使って有機肥料を自作。雑草は除草剤ではなく手作業で刈っている。認証取得前より労働量は増えたと苦笑いするが、「収穫量が増えて品質も良くなった」と言う。
また中規模農園では新たな取り組みがはじまっている。約8000ヘクタールのアブラヤシ農園を営むムランキン・プランテーションでは数年前から農園に侵入するゾウの排除をせず、見守る方針を貫いているというから驚く。
「攻撃的な追い払いをやめたら、ゾウはむやみにアブラヤシの木を倒さないようになりました。ゾウは賢い動物です。人間が穏やかな態度でいれば無駄な衝突をしたりしないんです」とは管理責任者のムハンマド・アル・シャフィークさん。今は苗や若いアブラヤシのエリアを電気柵で囲うだけで、残りの広大なエリアは野生動物が自由に行き来できる。
とくにゾウが好むのがアブラヤシの伐採地。見学に行くと、家族がゆうゆうと歩いていた。
「収穫量の落ちたアブラヤシは伐採して植え替えますが、伐採後に残る幹の中から若芽を探して食ベているんです。それらは無用のものですから、いくら食べてもらってもいい。ゾウたちの“フリー・ブッフェ”ですね」
さらに農園内に流れる川沿い約14kmに植林を施し、動物たちが身を隠しながら移動できる「緑の回廊」づくりにも力を入れている。
「農園から追い払われたゾウは仕方なく民家の近くを通って移動します。そこでもまた人との衝突が起こっている。それなら農園の中に回廊を作って移動させてやればいい。今後は近隣の農園と協力して、分断された原生林を回廊でつなぎたいと思っているんです」
農園で分断された森を、農園の人々がつないでいく。この取り組みはボルネオ島の持続可能性を探るヒントとして注目を集めている。野生オランウータンの研究を行うフェリシティ・オラム博士は、この農園で子育てをするオランウータンを見て衝撃を受けたと言う。
「悲しい光景かもしれませんが、開発し尽くされた土地で彼らが懸命に知恵を絞って命をつないでいることに深い感動を覚えました。同時に、開発側だった農園が共生の道を切り開いている事実は大きなインスピレーション。これまで私たちは森の再生に注力してきましたが、ここまで開発が進んだ土地では難しい。
そんな今、新しいアイデアで野生を守ろうとしているのがビジネスマン。彼らは自然を尊重することでビジネスの評価や成果が上がると知っています。自然も人間もこれ以上傷つけず、いい方向に向かう。そんなやり方があるんだと彼らから学んだのです」