世間知らずな医者の攻略法
「あの、留美さん......?初めまして。改めて、佑太郎と申します。どうぞよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
しかしながら数日後、留美は新規の男とデートに繰り出していた。
スーツ姿で緊張した様子の佑太郎は同い年の医者で、アプリ上で留美に大きな花束を何度も送ってくれた男だ。
彼とはメッセージをしばらく続けていたが、常に留美を褒め称えていた。
『アプリに本物の美人がいるなんて驚きました。清楚で優雅な雰囲気が素敵です』
『すごくモテると思いますが、まずは気楽なメール相手になれるだけでも嬉しいです』
『メールの文章にさえ上品さが滲んでいます。一度お会いできたら本当に嬉しいです...!』
佑太郎の言動はやや大袈裟ではあったが、年収は1200万円~1500万円の『証明済み』となっており、都内の超難関医大卒、さらに親の代から続く都心の病院で眼科医をしているという華々しいスペックを持つ男に崇められるのは悪い気分ではない。
そうこうするうちに留美がデートの申し出を承諾すると、彼はやはり大袈裟に銀座の老舗フレンチを予約したのだ。
「今夜はお時間いただき本当にありがとうございました。本物の留美さんに会えるなんて感激です」
佑太郎は特にイケメンというわけではなかったが、裕福な家で育ったお坊っちゃま特有のフワフワした清潔感と柔らかな空気感を持つ男だった。
男にしては綺麗な白い手でせわしなく動かし、遠慮がちに留美の表情をチラチラと伺う。どうやら本気で緊張しているようだ。
「いえ、こちらこそ。こんなグランメゾンで食事するのは久しぶりで、少し緊張しちゃいます」
「そ、そうですよね、留美さんはきっとお洒落なお店をたくさん知ってるから、こんな所じゃ古臭いかもしれないと思ったのですが......。昔から家族で使っているので、味は間違いないと思って......!」
佑太郎はオドオドと弁解するが、その様子は可愛らしかった。
たしかに初対面で重厚感に溢れた店を指定するのはスマートではないが、きっと世間知らずでロマンチストな箱入り息子なのだろう。
ならばお望み通り、彼のお姫様になってあげてもいい。
「ううん。すごく嬉しい。お食事楽しみです」
留美は男の目をしっかりと見つめ、ニッコリと微笑んだ。