白馬の王子様なんて、ただじっと待っていてもやってこない。
そんなことは30歳を過ぎた頃から薄々気づいている。かと言って自ら『モテ』を研究し男に媚びるように婚活に精を出すなんて、イタイ女のようで絶対にできなかった。
しかしここまで来たら、もう振り切るしかない。コロナ禍の悲痛な孤独生活と比べれば、多少のイタさなんて痛くも痒くもないはずだ。
『一緒に映画を観て、楽しくワインを飲める男性と出会いたいです』
ベッドの上でスマホに向かいながら、留美は徳光に言われた通り『1:1の法則』を意識して自己紹介文を書き換える。
さらには改めて写真も念入りに選定し、少し迷ったが夏らしく手足を露出した写真も載せてみたのだった。
人は「競争率の高さ」に価値を感じる
驚いたことに、徳光のアドバイスの効果は絶大だった。
これまでもアプリの感触はそう悪くなかったが、本気度の高そうなアプローチがグンと増えたのだ。
花束も順調に増え、ちょうど1000本を超えた。この調子ならランキング入りも時間の問題だろう。
――うわ、すごい美青年……。
メッセージを物色していると、『S 30歳』という男に目が止まった。スーツ姿で微笑む彼は、少女漫画のヒーローのような、やや現実離れした美しい顔をしている。
――これ、アプリ加工じゃないわよね?
まるで星が浮いているような綺麗な目と、人形のように整った骨格。『経営者・役員 2000万円~3000万円』というステータスも申し分ない。
よく見れば彼の方も多くの花束を贈られており、ランキング5位に輝いていた。
『人はな、競争率の高いモノに価値を感じるんだよ』
徳光はそんなことも言っていたが、一理ある。アプリとはいえ、モテる男にアプローチされるのは気分が良かった。
ふと、「ランキング1位のさくらさん」と嬉しそうに話す直彦の顔が頭をよぎる。
なぜ、あの男がいちいち気になるのか分からない。
ただあの表情を思い出すと、留美は無性に腹が立った。