円高が進むと、産業空洞化が進行する
日本経済はこれまで、多くの中小企業が部品や機械を作って輸出と雇用を支えてきました。
民主党政権期の1ドル70円台という超円高の時代、高い技術を持ったたくさんの中小企業が、国内でやっていけなくなって、追い立てられるように海外に出て行きました。
私は当時2011年の年末に、名古屋で中小企業の経営者の人たちを相手に講演をしたことがあります。終わってからの懇親会では、こんな円高ではとてもやっていけないと暗い話になりました。
みなさん自分の技術に誇りをもっていらっしゃるし、地域で雇用をつくる責任も自覚しておられるのです。だからできるだけここで事業を続けたいのだが、でもやっていけない、タイに出ていこうかといった話を、口々に真剣にされていました。
左派やリベラル派の世界では、円高になって困るのはトヨタのような大輸出企業ばかりというイメージがあるようですがそうではありません。
輸入品との競争にさらされる業者や農家、直接・間接の輸出向けに軽工業製品や機械や部品を作ったりしている中小零細企業も苦しめられます。
図表3では、わかりやすい例をとりあげてみました。左図は野菜の輸入数量と円相場の推移のグラフです。
2008年と翌年の大不況で輸入が落ち込んだときを除けば、ピンク色の円相場が円安(上)になると野菜(紺色)の輸入が減り、円高(下)になると野菜の輸入が増えていることがわかります。肉類も同様の傾向にあります。
右図は典型的に中小企業が多い業種で、「織物用糸・繊維製品」の輸出と円相場の推移のグラフです。今度はピンク色の円相場が円安(上)になると輸出(紺色)が増え、円高(下)になると輸出が減っていることがわかります。
なので、今後円高が進むと、中小零細企業や農畜産業者が消費税・コロナ不況に加えてさらなる打撃を受け、産業空洞化が進行することになります。
「円高でいい」という支配エリート
それに対して「これでいいのだ」というのが、この間の日本の支配エリートのビジョンになるわけです。
人口減少する日本は、どだいもう国内消費需要の成長は望めない。食品も衣料も家電も車もそのための部品や素材も、およそ大衆向け生産物の生産など、日本はもう優位性を失っているのだから、国内で作る必要はない。そんな旧態依然たる生産物の生産は東南アジアに任せればよろしい。
これから拡大するアジアの大衆需要を取り込むために、その市場の近くに進出して現地の安い賃金・低い労働条件で生産し、その一部を日本向けに輸出すればよろしい。
円高だから安く輸入できるので、国内で費用をかけて高い価格になってしまう非効率をなくせる。……こういうわけです。