またドライバーだった父親も、運転するバスに乗ってくる彼女たちを忌み嫌っていたという。その結果、ゲイリーの心の中では、「売春婦は社会にいないほうがよい」という「社会的正当化」が成立してしまった可能性が考えられる。幼少期の家庭環境が原因となって、母親による「暴力性」と「性的欲望」が融合し、「社会的正当化」を経て、「性的殺人」という形で現実に何度も何度も繰り返されたと言えるだろう。
凶行へと至った彼の心理
ゲイリー・リッジウェイの証言から見えてくるのは、彼が「何の後悔も不快感もなく71名を殺害した」という事実だ。多くの人間はそもそも他者を殺せないし、仮に殺したとしても後悔の念は非常に大きい。彼はなぜあのような凶行が可能だったのか? その答えは、彼自身の心が、すでに幼少期の段階で「壊れていた」からである。
前述の通り、幼少期の彼は暴力的な母親から抑圧されて育った。元妻が語ったところでは、母親は生活の他の面でも、ゲイリーに何一つ満足していなかったという。幼少期に愛情の源泉であるはずの母親から「自分がこの世に生きていること」自体を否定され、「自分の生」を肯定的に受け入れることができない人格が形成されていたのだ。
そうなった人間の中には、自身を「醜い」と思い込んでしまう者もいる。かわいらしい子犬や楽しそうに笑う同級生たちが、自分の対極にいる「破壊願望の対象」だと見えることもあるだろう。
母親から「自己の存在」そのものを否定され続けたゲイリー・リッジウェイは、他者を71回も否定(殺害)し続けなければ、生きていけなかったのではないか。そして、その暴力性は性的欲望と結びつき、また、母親を思い起こさせる女性と出くわす度に燃え上がったのだろう。これが「グリーン・リバー・キラー」誕生の真相である。
このような惨劇を二度と引き起こしてはいけない。そのためにも、特に0歳から4歳までの「臨界期」の子供たちが「虐待」や「ネグレクト」されないように、社会全体でしっかりとしたセーフティネットを確立しなければならない。誰もが一度きりの人生を全うできるように。