1億年前からずっと生きていた微生物を海底下の地層で発見!

海より深いところに潜んでいた命
海洋研究開発機構 プロフィール

微生物はエサを食べた?

──微生物がエサを食べたかどうか、どのようにしたらわかるのですか?

諸野 微生物がエサを食べたかどうかを調べるのは、とても難しいことです。でも私たちは、超高空間分解能二次イオン質量分析計(NanoSIMS、ナノシムス)という装置を使うことで、それを可能にしました。

まず、エサに目印を付けておきます。具体的には、エサに含まれる炭素と窒素を、性質が同じだけれども質量が重い同位体に置き換えるのです。NanoSIMSで解析すると、微生物が目印を付けた重いエサを取り込んでいるかどうか、さらに、取り込んだ量もわかります。

解析の結果、430万年前から1億150万年前に形成された地層の全ての深さで、培養開始から21日目の時点で、すでにエサを食べている微生物がいることがわかりました。

炭素と窒素の取り込みを調べたNanoSIMS画像(中央の4点)において、赤〜黄色の部分が与えたエサを食べた微生物を示している
拡大画像表示

──微生物が好きなエサと、あまり好きではないエサがあるようですね。

諸野 アミノ酸は生命活動に不可欠なタンパク質の材料なので、アミノ酸をよく食べるというのは、予想通りです。

炭素は生物の体づくりには欠かせません。生物の多くは有機物を食べて炭素を取り入れています。しかし、今回試料を採取した場所は堆積物中の有機物がとても少ないので、有機物ではなく二酸化炭素を食べて炭素を取り入れている微生物がたくさんいるかもしれないと思っていました。しかし、炭素を含む重炭酸はあまり取り込まれていませんでした。

栄養がとても少ない場所だから、生きるために変わった戦略を取っているやつがいるのではないか? そう思っていたのですが、意外と普通の微生物でしたね。

──微生物は増殖していたのでしょうか。

諸野 培養前の微生物の数は、1平方cm当たり100~1000個程度でした。これは、大陸沿岸の堆積物と比べて10万分の1以下です。それが培養開始から68日目には、多いものでは培養前と比べて1万倍以上に増殖していました。

1個の微生物が分裂して2個になるまでにかかる日数は、平均して約5日でした。これは、私たちが以前調べた下北半島八戸沖の海底下微生物より平均で5倍も早いんです。

栄養がとても少ないところにいる微生物なので生命活動はゆっくりだろうと考えていたので、予想外の結果でした。21日より短い培養期間にしておいてもよかったのかもしれません。

1億年もの間、微生物はそこにいた!

──今回の成果で最も驚いたことは何ですか。

諸野 1億150万年前に堆積した地層の中で微生物が生きていた! これは驚きでした。1億150万年前というと中生代白亜紀で、恐竜が繁栄していた時代です。大陸の配置も現在とはまったく違いました。微生物は、とっても長い時間を生き延びていたのです。

──エサを食べた微生物は、ずっとそこにいたのでしょうか。

諸野 南太平洋環流内の海底下の堆積物は、遠洋性粘土という細かい粒子で構成され、みっちりと詰まっています。そういう環境下では、1000分の1mmほどしかない小さな微生物であっても、堆積物中を動き回ったり、水の流れに乗って移動したりすることはできないでしょう。1億年前に形成された地層にいる微生物は、1億年前からずっとそこに閉じ込められていたと考えられます。

海底下で生きる微生物のイメージ。微生物は、細かい泥の粒子がみっちりと詰まった地層の中で、動き回ったりできずに閉じ込められたまま、生命活動を極端に低下させて生き延びてきたと考えられる。微生物の数は、深くなるほど少くなる。

──この発見は、たくさんの新聞やウェブメディア、テレビなどで取り上げられました。どのような反響がありましたか。

諸野 報道された記事へのコメント欄には、「ワクワクする」「すごいね」というものがありました。一方で、「今回の発見が新たな感染症に繋がるのではないか」「危険なのではないか」という内容のものが多くありました。

人間が住んでいる陸から遠く離れた海底下には、人間やその類縁の動物など、つまり感染相手となる生き物がいません。そのため、人間に感染したり病気を引き起こしたりする微生物が存在している可能性は極めて低い、と科学的に広く認識されています。

それでもリスクが完全にゼロというわけではありませんので、微生物が外に漏れ出さないように厳重な管理のもと、バイオセーフティレベル1という基準を満たした実験室でのみ実験を行っています。

関連記事