潰瘍性大腸炎性格ふたたび?
さて、2017年に「サイエンティフィック・レポーツ」というそれなりに有名どころの医学雑誌に、潰瘍性大腸炎を含む炎症性腸疾患と性格との関連を心理テストで調べた研究が報告されていた(*2)。
性格と病気の間の因果関係があるかどうかまではいえないが、炎症性腸疾患と「アレキシサイミア(失感情症)」の間に関連があるという研究内容だ。
このアレキシサイミアというのは、漢字から想像される「感情が失われた」という意味では無く、「自分の感情をうまく言葉で表現できない」ことを意味している。

想像力に乏しく、感情を交えない外面的な事実に関心が向かう、などの特徴があって、自分の感情を他人にうまく伝えられないため、自分の抱えているストレスに気づきにくいとされている。
そこで、ストレスを自分の内にため込んでしまって、ストレスが身体症状になってしまいやすい人ということになるわけだ。
これは、80年前の潰瘍性大腸炎「神話」や犠牲者非難の焼き直しなのか、それとも過去の学説の医学的再発見なのか。
じつは、脳科学では「腸脳相関」が最先端テーマで、腸内細菌叢の異常とパーキンソン病やアルツハイマー型認知症に関連があるとの説が議論されている。
そう考えてみれば、腸の状態が性格と関係することは科学的にあり得なくもない。
医学の進歩によって「神話」は否定され、潰瘍性大腸炎はたんなる大腸の病気となりました、メデタシメデタシ、とはならないところが、病気のイメージ史のもつ複雑性だ。
(*2)Barbera et al. (2017) SCIENTIFIC REPORTS 7:41786, DOI: 10.1038/srep41786
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