韓国ドラマに起きていた大きな変化

初めて日本に韓国ドラマが伝わった2004年頃は、韓国でもドラマは地上波の放送がメインで、主な視聴者は主婦層だった。そのため、内容も家族ものや、「男性がか弱い女性を守る」といった王道のラブストーリーが主流だった。しかし、2011年以降、韓国では地上波より制作や編成の自由度が高いケーブルテレビ局など新しい局が次々と誕生する。多チャンネル化、インターネット配信などで新しい視聴スタイルが生まれ、視聴者は若者や働き盛りの層にも拡大した。これらの変化で、韓国ドラマは大きな転換期を迎える。

特にケーブル局は、この時期、地上波から優秀なドラマ制作スタッフを引き抜き、新しい視聴者層に合わせた、これまでにないジャンルのドラマを次々と制作し始めた。2014年には、ケーブル局制作の『ミセン-未生-』が大ヒットするなど、恋愛要素の無い社会派ドラマや職業モノなど、ジャンルの多様化が進んだのもこの頃である。設定やストーリー展開も、時代や視聴者の変化に合わせたものに進化した。

今回、『愛の不時着』『梨泰院クラス』で「ヒロイン像が新しい」ということが注目されたが、こういった変化は、すでにこの頃から起こっていたことだった。

主人公のユン・セリは上場企業の起業家で、自分の財力・権力で仲間を守る強い女性/『愛の不時着』より

一方で、この頃といえば、日本で地上波における韓国ドラマの放送が終了していった時期と重なる。その後も、韓国ドラマ専門チャンネルなどでは放送されたが、本国での変わりゆくトレンドをそのまま伝えるというよりは、日本で人気のある韓流スターの出演作や、ラブコメ作品にフォーカスする傾向が続いた。

作品が日本で放送される際も、メインイメージには作品の本質とは異なるような「胸キュン」「イケメン」といった表現が並び、恋愛要素だけを前面に押し出すようなデザインに改変され、オリジナルのものとは大きく変わってしまっているケースも少なくなかった。まるで日本で伝えられる韓流ドラマと、実際の韓国ドラマが「別物」に思えるほどだ。

これらも、長らく日本で韓国ドラマのイメージが固定化し、新しい姿がなかなか伝わらなかった一因ではないかと思う。