菅氏の向き合う「負担軽減」と、苛烈な沖縄戦から75年、米軍基地の過重な負担を受けながら歴史を刻んできた沖縄の人々との思いには隔たりがある。
菅政権が誕生すれば、沖縄の米軍基地問題の混乱は続き、本土と沖縄の関係はぎくしゃくしたままで、沖縄県内で新たな分断を生み出しかねないといった懸念がつきまとう。いや、それ以上の悪夢になるかもしれない。
あまりに乱暴な辺野古埋め立て
普天間の辺野古移設は第2次安倍政権発足からちょうど1年の2013年12月に転機を迎えた。当時の仲井真弘多(なかいま・ひろかず)知事が、新しい米軍飛行場を造る目的で辺野古の海を埋め立てる防衛省の計画を承認したのだ。
直前に、安倍首相は東京で入院生活を送っていた仲井真知事と面談し、向こう10年間、年3000億円の沖縄関係予算の確保や、米軍基地問題の取り組みなど「政府にできることは全てやる」と約束していた。

仲井真知事の姿勢は「金で転んだ」と受け止められ、県内で失望と反発が高まる中、政府は入札などの準備期間をへて、2014年7月に事業着手した。そして、それまでとは異なる法律上の根拠で、現場で座り込む住民らを排除するようになった。
まず始まったのは海上での規制だ。埋め立て予定海域に住民らが船やカヌーで近寄って抗議するのを防ぐため、広範囲を立ち入り禁止とした。根拠は日米地位協定。もともと米軍基地の警備上の必要性から陸岸から50m以内を常時立ち入り禁止としていたが、それを最大で沖合2・3kmと大幅に広げた。期間は「工事終了まで」。抗議する住民たちを遠ざける狙いが明らかだった。
ここで考えてほしいのは、埋め立て工事は日本政府の事業で、日米地位協定は米軍の権利や運用のルールを定めた取り決めだということである。米軍の運用とは関係のない日本政府の工事のために日米地位協定で海域を規制することが許されるのだろうか。沖縄の弁護士らは「悪用だ」と批判してきた。