さらに辺野古埋め立て工事の賛否を問うた2019年2月の県民投票では、投票率が5割を上回り、「反対」が7割を超えた。しかし、菅氏は「結果を真摯(しんし)に受け止める」と言いながら、工事を中断する気配も見せなかった。
翁長氏や玉城氏が、仲井真氏の埋め立て承認を取り消したり、撤回したりして、工事を一時的に阻止すると、政府は、国民の利益や権利を保護する行政不服審査制度を利用して、その効力を止め、工事を再開した。本来、対等・協力の関係にある国と地方の争いは、地方自治法で解決の道筋を定めるが、それでは時間がかかるため、手っ取り早く工事を再開する方法を選んだのだ。一般私人と同様の立場で埋め立て承認を得たので、一般私人と同様に行政不服審査制度を利用できるという理屈になる。
法律上の争いになると、辺野古移設に多くの県民が反対していることや、沖縄の過重な基地負担などの本質的な問題に触れられることはない。防衛省が「一般私人と同様の立場である」という主張が、法的に正しいか、どうかと機械的なやりとりだけで結論が出る。
菅氏は「法治国家として法に基づき、工事を進めている」と繰り返してきた。翁長氏は生前、「民主主義や地方自治を無視し、対話を拒む。これが法治国家なら『ギリギリ法治国家だ』」と、工事を止めることのできない現状に最大の皮肉を込めていた。
普天間飛行場についての認識のズレ
「負担軽減」の原点の認識にも差異がある。
安倍氏や菅氏は、「普天間飛行場の危険性の除去は喫緊の課題」と説明する。人口10万人を超えた宜野湾市のど真ん中に位置する普天間飛行場を、人口が少なく、海に突き出た場所に移す計画になぜ反対するのだ、と言わんばかりである。

翁長知事や玉城知事は反論した。1945年の沖縄戦で上陸した米軍が、本土への出撃拠点とするために建設したのが普天間飛行場だ。役場や学校があり、8800人が暮らした集落を奪い取りながら、そこが古くなった、危険になったから他の土地をよこせというのは理不尽で、政治の堕落だ、と訴えてきた。