「マイノリティへの配慮」を受賞条件にした、アカデミー賞の英断

ハリウッドの創造性は失われない
猿渡 由紀 プロフィール

今回発表された“新ルール”は、まさにそこを突くものだ。「多様性」がアカデミー作品賞の新基準に加わることで、オスカーが欲しい、欲しくないにかかわらず制作スタジオやプロデューサーは、マイノリティを意識することになる。

先に述べたように、白人だらけの映画を作ることも可能ながら、「私たちもちゃんと多様化のために取り組んでいます」というアピールをしなければ、外部からのプレッシャーは大きくなるはずだ。結果として、作品賞にノミネートされる映画だけでなく、ハリウッド全体の作品の傾向も変化していくだろう。

今回の米アカデミーの改革を待つまでもなく、マイノリティを意識する動きは、近年急速に強まっている。「#MeToo」をきっかけに始まったハリウッドの男女平等を求める「#TimesUp」運動以後、女性監督や女性脚本家を起用した作品は確実に増えてきた。そのような映画が誇らしげに「マイノリティ起用」を強調することで、多様化に向けた努力が弱い作品には居心地が悪いような状況にもなっている。

大物映画プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタイン氏。彼が告発され「#Metoo」運動が盛り上がった[Photo by gettyimages]
 

トロント映画祭も、近年は率先して多様化を進めており、今年はなんと出品作の45%が女性監督による作品だった。観客賞をはじめ主要な賞を手にしたのも、ほとんど女性だ。

このように自主的な動きが起こっている中で、さらなる多様化を後押しするのが、今回のアカデミー賞作品賞の「新ルール」である。だから今回の米アカデミーの取り組みは、一見画期的かつ大胆な改革でありながら、近年のハリウッドの傾向を考えれば必然的な措置でもあるのだ。

日本のハリウッドファンの中には、今回の騒動を不安に思った人もいるかもしれない。しかし、これは時代の流れに沿った試みで、正しいことだと言える。もちろん、「昔のハリウッド映画のほうが良かった」と愚痴をこぼしたい人もいるだろう。でも、このような取り組みはどんな分野でも起こっていること。後ろを向かず、前を向いて突き進むことで、今までと違う素敵な作品に、きっとめぐりあえるはずだ。

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