死亡報告があっても異例の承認だった『バイアグラ』

「バイアグラ」とは、男性の勃起不全治療薬だ。この薬が市場に出回ったのは1998年3月、アメリカでのことだった。アメリカ国内では爆発的人気を博し、発売直後は、大学病院に1日300人以上が行列するというニュースもあがっていた。しかし発売から4ヵ月、米国で処方された260万人のうち、死亡例が123人報告された。

日本では、その報告直後の7月に、インターネットで個人輸入をした60代男性が死亡した。しかし、こういった状況にも関わらず、死亡報告があった7月には承認申請が出され、12月には中央薬事審議会常任部会で承認、発売が決定された。申請から承認まで半年も経たない、一般的に考えても異常なスピード承認だったのだ。

この件に関して厚労省は「バイアグラは治療薬で、生命に関わる疾患ではないが、患者さんにとっては深刻なことで他に治療薬がないから」というコメントを出している。

世界でも話題になるほど、日本で異例のスピードで認可された「バイアグラ」。photo/Getty Images

一方、承認が進まず、沈黙状態が続いている低用量ピルは、「健康人が服用する薬で、副作用の懸念は勿論、低用量ピルが避妊薬として使われることでエイズなど性感染症が蔓延する恐れもある」と説明をしている。

ちなみに、勃起不全治療薬がバイアグラ以外他にないというが、この時点で、日本には女性が自分で使えるホルモン避妊薬も存在していない。また、バイアグラが本当に「治療薬」と認識されていれば保険適用になるはずだが、承認が決まった直後、厚労省は保険適用しないことを発表している。

また、厚労省は低用量ピルの副作用に関しても言及していたが、当時、自分で避妊を試みる日本女性は、低用量ピルが入手できないために、『中高用量ピル』を服用するしかなかった。この『中高用量ピル』は、副作用が重いため日常的に使う経口避妊薬としては世界では既に使われなくなっていた過去の薬だ。様々な研究班も日本における調査でその安全性を証明していたことも鑑みれば、「副作用が心配だから低用量ピルを認可しない」というのは辻褄が合わない。

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さらに、「ピルの承認においては性感染症の蔓延が懸念される」というが、1999年の答弁で、厚労省保健医療局長は、「バイアグラの承認審議の際には性感染症の蔓延といった問題提起はなかった」とも発言している。

この事態は、国内外から大きく批判された。ある女性議員は「厚生省は男性に性の快楽を許しながら、女性にはピルを許さない。避妊できない妻に対して、夫はバイアグラを使うのか」と痛烈に批判した。海外メディアも「男性が支配する社会における女性軽視」「日本は依然、男性による長老支配のまま」と報じた。

そして、1999年6月の国連総会で、日本政府は最大のプレッシャーを受けることになる。国連総会では1994年に採択された「セクシュアル・リプロダクティブヘルス・ライツ」「近代的避妊法の入手、使用の権利」の成果を確認する内容があった。日本は現状のままでは国際社会から大いに批判されることは明らかだった。

実際、国連総会のプレ会議的位置づけにあった1999年2月のハーグ国際フォーラムで、日本の女性議員がバイアグラは承認されながらピルの認可がない状況を伝えると、会場は水を売ったように静まり返った後、会場には驚愕と呆然の声に満ちたという。国連総会で同じ事態は繰り返せないということで、1999年6月、バイアグラ承認の半年後に、低用量ピルが経口避妊薬として認可されたのである。