2020年上半期、音楽シーンに「事件」が起きた。
2019年11月にリリースされたYOASOBIのファーストシングル「夜に駆ける」が、リリースから半年以上経った2020年6月にBillboard JAPAN 総合ソング・チャート“JAPAN HOT 100”で3週連続総合首位を獲得し、その後もチャート上位に居座るという快挙を達成したのだ。
加えて大きな注目を集めたのは、そんな鮮烈なデビューを果たしたニューカマー・YOASOBIに加えて、ずっと真夜中でいいのに。とヨルシカ、この3組を好むユーザーが自らを「夜好性」と称するインターネットミームが広がり始めたこと。
3組ともアーティスト名が“夜”に関連していることから生まれたミームだが、アーティスト名以外にも共通点がある。この3組を通して、現状の音楽シーンの“鍵”を紐解いてみよう。
ヨルシカと「物語性」
3組の中で、表立った活動歴が一番古いのがヨルシカ。2017年にボカロPとして活動していたn-bunaがsuisとともに結成した。
このユニットの一つの特徴は「匿名性」が高いことである。「作品に先入観を持ってほしくない」という理由から、ふたりの顔や詳細なプロフィールはふせられている。ユニット名はファーストミニアルバム『夏草が邪魔をする』に収録されている「雲と幽霊」の歌詞の一節〈夜しかもう眠れずに〉から取られている。
そのヨルシカが2019年にリリースした2枚のフルアルバム『だから僕は音楽を辞めた』と『エルマ』は、n-bunaが描くひとつの長編──青年エイミーと少女エルマの長きに亙る交流──を楽曲にするというコンセプトにもとづいたアルバムである。この「物語性」がヨルシカのもう一つの際立った特徴と言えるだろう。