センシティブで天性の才能に溢れる平手友梨奈は、この歌詞と同化していく。
歌詞のメッセージをすべて自分の体内に叩き込むように、おそらく自分のすべてを律していったのだろう。
つまり「まわりの誰をも信用していない」という無理めの状況に自ら追い込んでいった。
欅坂の仲間さえも頼らなくなった。
この曲は最後にV字型にメンバーが並び、先頭(センター)は平手で、二列目には長濱ねると菅井友香が並んでいた。
菅井友香は欅坂のキャプテンであり、ドキュメント映画『僕たちの嘘と真実』でも欅坂を語る中心メンバーとして登場している。彼女は『不協和音』から平手友梨奈の雰囲気が決定的に変わり、すぐ横にいる私たち(菅井と長濱)と目も一切合わせなくなった、と証言している。
この歌と歌詞を聞く人(見る人)に強く届けるためには、自分をも追い込んでいかなければ達し得ないと考えた平手友梨奈は、メンバーとの交流を断ってでも、歌に自分を注ぎ込んでいったのである。
彼女は、歌を届けるために、リアルな生活を犠牲にして、表現に没入していく。
一度妥協したら、死んだも同然。
歌詞にあるとおりの行動を取り始める。
そしてそれは生身の平手友梨奈を苛んでいく。
別の次元へ進んでいった
『不協和音』がリリースされたときにまだ16歳、彼女は1期生メンバーのなかでは最年少であり、それでも最初からセンターを任されたのだ。
16歳の少女として、当然、なぜ私がセンターで私ひとりが目立つのだ、という自問は続き、それでいてまわりのメンバーが認めざるを得ない飛び抜けたパフォーマンスを見せる。楽曲に対して納得するまで向き合い、おそらく深く自分自身の中に沈み込み、深遠な部分を探るような凄まじい作業を毎度くりかえしたいたのだろう。他の仲間と楽しくふれ合うことが少なくなっていく。
平手だけがひとり別の次元へ進み、ほかのものたちが見えない風景を見ている。残りのメンバーはそう感じていた。