2020.10.10
# 北朝鮮

北朝鮮が「ド派手な軍事パレード」で新型ICBMをお披露目する理由

朝鮮労働党創建75周年の今年はどうか
伊藤 孝司 プロフィール

後継体制への移行を示すパレード

次の軍事パレード取材は、2010年10月10日の「労働党創建65周年」。この時も招待状を得たので観覧台から撮影しようとしたが、カメラの持ち込みは禁止された。つまり、最高指導者が出席するからだ。

党創建65周年の軍事パレード(右)と「慶祝夜会」の招待状

午前9時25分、色とりどりのポンポンなどを持った市民たちが音を立てずに広場へ入ってきた。続いて、ファンファーレを合図に軍楽隊が入場。この人たちで広大な広場は埋め尽くされた。

次に、軍用オープンカーで国旗と最高司令官旗が入場。掲揚台に掲げられる時には「金正日同志のために命がけで戦おう!」との広場を震わせるような声が響き渡った。

すべての準備が終わると、広場は静寂に包まれた。メディアのカメラだけでなく、参加者の視線も主席壇に向けられている。誰一人、声も出さず動かない状態が20分ほど続いた午前10時。時刻を知らせる鐘の音が鳴り終わると、軍楽隊が勇ましい曲を演奏し始めた。

すると、すべての人が慌てて立ち上がって拍手を始めた。この曲は「1号歓迎曲」と呼ばれ、最高指導者が公式行事に登場する際に必ず流れるものだ。会場内に設置されたマルチビジョンに金正日総書記と金正恩(キム・ジョンウン)氏が映し出された。最大の祝意を表す21発の祝砲が鳴り響く。気持ちを盛り上げる最高の演出である。

行進が始まった。兵士たちの顔は、主席壇に向けられている。約2万人の兵士が参加したという。続いて、戦車や新型ミサイルが登場。それを海外メディアが道路上から撮影している。2005年のパレードでは最新型ミサイルの撮影が禁止され、隠れて撮ったカメラマンのメモリーカードからもその映像は消去されたという。

建国60年の際の軍楽隊と市民たち(2008年9月9日撮影)

私の近くで大きな回転音がするので見ると、北朝鮮のカメラマンがドイツ製の映画撮影用カメラ「アリフレックス」で撮影をしていた。フィルムの回転音がうるさいほどだ。かなり使い込んでいて、そのまま博物館で展示されてもおかしくないカメラだった。

パレードが終了すると金正日総書記は、主席壇を外国人招待者のすぐ上に移動して手を振った。私の隣にいる案内員は、張り裂けんばかりの声で「マンセー!」と叫び出した。「人はそれほど大きな声が出せるのか」と驚く。

金総書記との距離はわずか15メートルほど。サングラスを掛けていないので、表情が良く分かる。かなり痩せていて、右手で手すりを掴んで不自由そうな足取りで歩いて行った。

 

主席壇の後方には、直近の9月28日に党中央軍事委副委員長に選出されたばかりの金正恩氏も立っていたというが、私の位置からは見えなかった。「朝鮮中央テレビ」は、この日の軍事パレードを、異例の実況中継で伝えた。後継体制へ速やかに移行しようとする北朝鮮にとって、この日のパレードは重要な意味があったのだ。

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