2016年に渡仏。単身、金・コネ・語学力なしの状態から、ライター、バイヤー、コンサルティング業を経て、株式会社を設立したパリ在住のSAKIさん。日本で働いた経験や、コンサルティングや起業サロンの主宰を通じ、世界各国に住むさまざまな女性との関わりから、特に「日本での女性の働き方」「性別・人種の不平等」に問題意識を持つ。今回は、黒人のパートナーと日本へ帰国したときの話をもとに「無知が人を傷つける可能性」について、思いを綴る。

 

黒人パートナーをみた70代の日本人男性の反応

フランスにはたくさんの移民がいる。

「フランス人」とされている人たちも、祖父母の代まで遡ると家系全員がフランス人であるというケースはかなり限られている。少なくとも、私は今までそんな人に出会ったことがないし、友人や同僚は多国籍という環境で暮らしている。イタリア系、ポーランド系、カリブ系、アフリカ系......とさまざまだ。

いろいろな国にルーツを持つ人々が行き交うパリは、まさに人種のるつぼ。Photo by iStock

以前、フランス人で黒人のパートナーと日本に行ったとき、地下鉄のホームで70代くらいの男性が彼を見るなり立ち止まって、口をあんぐり開けながら彼の顔から足まで目線を数回往復し、舐めるように見られた経験がある。

「映画で見たような人間がここにいる。というか人間なのか……?」そんな心の内が透けて見えるような反応だった。

多くの日本人は外国人にそもそも慣れていないし、中でも同じアジア系でもなく、テレビや街中でよく見かける白人でもない黒人は、より珍しい存在に映るのだろう。

当の本人であるパートナーは、自己肯定感が鬼のように高いからか、その70代の男性の反応が面白くて笑い転げていた。ショックを受けるという感じではなかった。

これは「差別」ではないと私は思う。

この男性は「未知の存在との遭遇」であって「存在を否定している」わけではない。

BLACK LIVE MATTERが世界で巻き起こっているが、黒人や、住んでいる国で外国人に当たるすべての人が、「自分は差別をされている」と感じながら暮らしてはいない。

私自身も、パートナーのことを黒人だと思いながら一緒にいるわけではないし、彼は彼だ。毎日近くで顔を見ていると、自分と同じ人種にすら見えてくる。いや、絶対的に違うのだけれど。

BLMのような大事(おおごと)ではない、国籍や人種に触れるというのはもっともっと日常的なことなのだ。