『鬼滅の刃』『チェンソーマン』にも通じる? ボカロP「カンザキイオリ」が圧倒的に支持されるワケ
ボカロP(ボーカロイドを使った楽曲の作曲者/プロデューサー)のカンザキイオリが2020年9月に刊行した初の小説『あの夏が飽和する。』(河出書房新社)は発売してすぐ7万部を突破と、新人の文芸作品としては破格のヒットとなっている。
カンザキイオリは2014年からネット上に曲を発表するようになり、17年発表の「命に嫌われている」が1400万回再生を記録、18年からはバーチャルシンガー花譜のプロデュースも手がけ、20年には初の小説発表、そして山田悠介の小説のPVに曲を提供と話題に事欠かない。
彼が支持される理由はなにか。また、サブカルチャー史的にどう位置づけられるのか。
友川カズキや三上寛の現代版
中学生のころ、学校に通う意味がわからず不登校になったというカンザキ作品の特徴は、生きづらさやきれいごとへの反発を直球で、字余り気味に吐露するところにある。
たとえば代表曲「命に嫌われている」の歌詞は“「死にたいなんて言うなよ。」「諦めないで生きろよ。」そんな歌が正しいなんて馬鹿げてるよな。実際自分は死んでもよくて周りが死んだら悲しくて「それが嫌だから」っていうエゴなんです”と始まる。
花譜に書いた「不可解」の歌詞は“お金とか、ビジネスとか、効率とか、そういうことをこれから考えなくちゃいけないんだ。そうでしょう? だって学校なんかじゃ責任感とか、団体行動だとか、ありもしない、意味もない将来のためとか言って教えてくるじゃん?”という語りから始まるのだ。
ここで歌われているのは、尾崎豊的な(甘美な)「反抗」というより、「殺してやる殺してやる殺してやる 快感だ」と歌った友川カズキ(「彼方」。作詞は山本晋也)や「希望の前にあきらめ覚え/産れる前に死ぬ事覚え/与える前に盗みを覚え/手を組むたびに裏切り覚え」と歌った三上寛(「あなたもスターになれる」)のようなアンダーグラウンドなフォークシンガーによる希死や殺意が入り交じる「厭世」「呪い」に近い。
メジャーシーンのポップスやロックでは聞けないようなあけすけで過激な、思春期のささくれだった心を撃つ詞の世界がカンザキイオリの持ち味である。