菅政権が目論む中小企業の淘汰
今日(2020年9月16日)菅義偉さんが総理大臣に就任しました。
菅さんのブレーンにはデービッド・アトキンソンさんがいます。イギリス出身の人で、日本の観光・文化財活用の専門家としてご存じの方も多いでしょう。
実はこの人は、生産性向上のための中小企業の淘汰再編が持論の人です。
新型コロナ禍対策でも、政府の支援策が「生産性の低い」小規模事業者に偏っているとして批判しています(「コロナ禍で自然災害が起きれば、日本の財政は未曾有の危機に」WEBVoice2020年7月9日)。
「小規模事業者に補助金を出す必要はない」「コロナ危機が日本最後のチャンスだ」とも言っています(「慢性的な赤字企業は、ただの寄生虫」プレジデントオンライン2020年7月12日)。
菅さんも日頃の彼の持論を受けて中小企業再編論を唱えています。
コロナ禍をチャンスに中小企業の淘汰再編を進めようというのは、かつて竹中平蔵さんも理事長を務めた「東京財団政策研究所」が提言しているコロナ対策でも打ち出されている路線です。
政府・自民党の上層部にはその志向が色濃く、菅政権下では、こうした路線が一層あからさまに打ち出されることが予想されます。
こんなコロナ大不況の中でまともにこんなことをやられた日には、再就職のあてもない失職者がどれだけ出るかわかりません。

新自由主義化するリベラル
アトキンソンさんにも東京財団にも共通する「問題意識」は、まとめてみると次のようなものです。
問題:「日本は産業構造の転換が遅れて生産性が停滞している。このままでは国際競争に負けて危機に陥る。財政や規制やむりやりな円安誘導で、既得権にあぐらをかいたゾンビ企業が温存されているせいだ。そのせいで国の借金も膨らんで破綻寸前だ」
これは、思い出してみれば、小泉・竹中改革が掲げていた「問題意識」にほかなりません。由緒正しいバリバリの新自由主義の発想です。
新自由主義のバックにある経済理論の、「新しい古典派」の経済学者たちがする、典型的な日本経済停滞の原因の見立てです。
でも、実はアトキンソンさんは、リベラル派の人にわりと人気があります。考えてみればこの「問題意識」は、リベラル系の大新聞もしょっちゅう言っているような気がしませんか。リベラル派の論客にも同じようなことを言ってきた人がいませんでしたか。
かつての左翼は「生産性」に抵抗した
若い世代の人は知らないでしょうけれど、私の学生のころまでの記憶にある冷戦時代の左翼は、決してこんなことは言いませんでした。
今はJRになってしまっている国鉄の戦闘的労働組合「国労」とか、今は日本郵便になってしまっている郵政関係事業の労働組合「全逓」とかが、当局の押し付ける生産性向上運動、通称「マル生」に対して、激しい反対闘争を繰り広げ、それを社会党も共産党も応援しました。「生産性」なんてネガティブワードだったのです。
1985年の先進5ヵ国の蔵相・中央銀行総裁会議の「プラザ合意」によって急激な円高が引き起こされて、政府がそれを放置したとき、共産党は強く政府を批判していました。
円高でいかに中小企業やその従業者が苦しんでいるかを訴えるチラシを覚えています。
それが、日本のバブルが崩壊し、冷戦が終わった90年代から、くだんの「問題意識」は、反自民党の世界でも語られるようになりました。