2020.11.12
# 不動産

飲み屋客は知らない…新宿・思い出横丁が直面している「3つの苦悩」

【ルポ】昭和の横丁探訪記
フリート 横田 プロフィール

横丁の課題

バブル期に入ると横丁は変質しだす。各地の横丁でも見られたことだが、土地自体がこれまでになく異常な価値を持ちはじめると、その上でやきとりを焼いて売るよりも、地面自体を売って莫大なカネに換え、他所に出た方がいいという人がでてきた。投機目的で買う人も出る。事実、思い出横丁にもそういう人はいたと村上さんは言う。

一コマを、坪5000万だか1億だかで買った人がいますよ。ところがいまだにそういう人が持っている場所もある

土地を買ったものの、結果的には売り抜けられなかったのだ。上記のとおり、昭和20年代末以来、稠密に並ぶ店の一軒一軒の店主が、それぞれ一国一城のあるじとなったために、一帯での地上げをやりきれず、そのうちに泡沫の時代が弾けてしまった。まだ壮年期にあった店主たちも横丁防衛に余念がなかった。

まだ大衆食堂が多かった頃。路地には10軒以上あった時期もあるという。昭和46年撮影(提供:新宿歴史博物館)
 

40年ほど前、商売を続けられなくなった店主から、村上さんたち数人の店主が「へんな人が入ってしまうと困る」と1コマを共同で買ったことがあった。以後空き物件にもならず、毎夜酔客が楽しむ酒場空間が保たれてきた……のだがここにきていくつかの課題が立ちあがってきた。

年に一回、店の権利者たちと総会として食事をしている村上さん。近年、面食らうことが増えてきたという。

その1コマにね、いまは20人近く権利者がいるの。そのうち12、3人は顔も知らない人なんだよ。三代目か四代目とかね。将来、もし開発するってなったとき、この人達にどうやって話すか

飲み屋街に限らず、時を経れば世代がかわり、適切な相続がなされていないと権利関係は複雑化していく。横丁の何を決めるにしても合意形成に時間と手間がかかるようになる。まずこれが第一の課題。

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