加えて、私などがウットリしてしまう戦後以来の木造家のひなびの味は、老朽化と表裏一体だ。建物もインフラも限界にきている。第二の課題である。
店の二階で私と向かい合う村上さん。「ほら、みてごらん」と足の下の畳を指さす。
「床面が少しナナメになっているでしょう? みんなが寄り添うように建ってるの。それだけ木造が密集してる。これで火事になったらあぶない」
隣り同士、寄り掛かるように建つ木造二階家は歪みが生じているし、防災の問題は関係者が共通してもっている悩みだ。インフラの老朽化も頭を悩ませる。
数年前にガス管を交換した際はあまりにもボロボロで驚いたというし、戦後間もない時期に通されたらしき下水管はどこをどう通っているのか図面さえなく、汚水がしみだしても破損個所が分からない。色のついた水を流して調べるほどだ。地下には突如として、空洞が見つかり陥没することもある。古ければ、害虫・害獣問題も当然起きる。組合は駆除に年間数百万円をかけている。

「うちも最近、水道管が壊れたんですけど、そのたびに営業を数日休んで修理します。これが何度も起きると、経営的にはとても厳しいんです」
線路側の角で喫茶店「但馬屋珈琲店」を営む伊東直美さんも、店や横丁のおかれた現在の状況について、苦笑しながら教えてくれた。
老朽化がいかに著しかろうと、パッと簡単には新築にできない。1999年に横丁で火災が起きた際、横丁の三分の一を焼失した。当然建て替えようとしたが、戦後以来の木造バラックである。横丁西側、都道に接した店々は再建できたものの、真ん中(中通り)は、接道義務を果たせず、法的に建て替えが許されなかったのだ。
結局、将来防火建築に建て替えることを条件に、柱を残して「改築」された(ちなみに、後年、柱を残さずに「新築」しようとした中通りのある店は、役所から許可がおりず、天井を開閉式にして仮設店舗ということで営業できた、なんてこともあった。個人的には、カッチリした造りでないところも面白いと思ってしまうが…)。