「大阪都構想」再否決、それでも維新は驚きの「3回目」を狙う?

維新戦略の失敗とその後
村上 弘 プロフィール

(4)維新と行政の「財政合理主義」――嘉悦報告書の財源創出効果を実は信じず、超節約型の「大阪都」設計を進める

政策や事業の事前評価は、ふつうは行政機関が多様な専門家の意見を参考にまとめるが、「大阪都」に関しては、東京の特定の研究者グループ(嘉悦学園)に委託する方式がとられ、「年間1000億円の歳出効率化・経済効果」という驚くべき答申が得られた【注6】。

しかし、計算の前提や方法について、研究者や市会議員から根本的な疑問・批判が続出し、新聞も小さくではあったが報道した。

・嘉悦報告書は、大阪の特別区の1人当たり歳出額予測を、各種計算を経た結果、東京の実績値約40万円よりはるかに小さい約20万円と推定している。
・現在の大阪市と、将来の特別区の財政だけを比較している【注7】。消滅する市の多くの業務を引き受ける府において発生する歳出増については、項目を設けず、おそらく全体の計算にも含めていない。
・市町村の人口規模(グラフのヨコ軸)と人口1人当たり歳出額(タテ軸)の関係について、一定人口規模以上で歳出額が増える「U字カーブ」モデルを採用するが、これは中核市や政令市での事務権限拡大による見かけ上の現象で、その拡大分を除くと一定人口規模以上で横ばいになる「L字カーブ」モデルが正しい。

本来は次のような計算やデータも、かならず必要だ。

・廃止された大阪市の広域事務とその担当職員を引き受ける大阪府の、大きな歳出増(府市の別の資料では、年間2000億円以上)。
・東京の特別区の非効率性、つまり権限が小さいのに一般市並みの財政支出(人口1人当たり40万円弱)を消費している事実と、そこから予測できる、大阪市の4分割によるスケールメリットの低下、非効率(直感的には、もし1つの中規模の企業、マスコミ、大学などの組織を4分割しそれぞれ独立させるなら、おもな専門部局・担当者・設備が4セット必要になり、大きなムダが発生する)【注8】。
・国の「基準財政需要額」の計算方式を用いた、大阪トータルの歳出変化の推定。具体的には、現在の「大阪府+大阪市」の基準財政需要額の合計と、大阪市廃止後の「大阪府+特別区」のそれとを比較するべきだ(「大阪市を4市に分割した場合、基準財政需要額の合計が大幅に増加する」という架空の財政試算が批判されたが、ここで書いたように、市の高次機能を引き受けた府や特別区について試算するなら客観的な妥当性があり、知事・市長はその結果を公表すべきだった)。
 

さて、そうした私を含む研究者等の「対抗的コミュニケーション」を参考にしていただけたかは不明だが、府市の行政担当者や維新の知事・市長も、結局、「大阪都」で多額の財源が生まれるという楽観的な嘉悦報告書を信じなかった可能性がある(嘉悦学園の試算は、総務省に提出した公式文書には収録されたのだろうか。維新の有権者に対する宣伝では活用されたが)。

そのように推測する根拠は、都構想の企画立案において、楽観的な資金投入が避けられ、むしろ異常なまでに節約が行なわれた事実だ。財政の責任者としては賢明だが、制度設計は超節約型となった。

東京より大型の特別区を作る前回の5区案は、4区にいっそう統合されて「住民から遠く」なり、「ゲリマンダー」のような長細い区域も出現した。大型化する特別区の区役所を新規に建設せず、廃止後の大阪市役所ビルに分散配置する方針は、多くの人に不安と不信を呼び起こした。

特別区議会の議員定数は、東京の場合よりはるかに少ない20人程度に抑えられ、専門委員会に分かれると、中政党や女性議員などはゼロになるかもしれず、民主主義と審議能力へのダメージが大きい。

もし維新や嘉悦学園報告書が主張するように「大阪都」で本当にムダが省け、「10年で1兆円」の財政余力が生まれるなら、ここまでの超節約型のムリな設計はしなかったはずだ(健全な地方自治を守る立場の総務省は、こうした不自然な制度案に対して、意見を述べるべきだった)。

さらに、住民サービスについても、「特別区の設置の際は、大阪市が実施してきた特色ある住民サービスは内容や水準を維持」【注9】するなどと、以後のサービス削減のフリーハンドを確保する書き方がなされた。なかなか微妙で、ある意味では「誠実な」書き方である。

つまり、証言を得ることはむずかしいが、維新の知事・市長やそれに従う行政職員にとっても、大阪市廃止=大阪都の制度改変は財政的に厳しく、実は大きな不安があったのではなかろうか。

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