2020.11.29
# オバマ # 翻訳

日本メディアの「オバマ回顧録」の翻訳、その訳文がはらむ「危険性」を考える

政治的衝突の火種になりかねない
鴻巣 友季子 プロフィール

pleasantとawkwardはどちらも鳩山氏が「どんな感じの人か」という「当たり」の印象を述べている。どちらの語も多元的な意味をもつから、その含意のどの部分を日本語で引き出すかは、文脈による。とはいえ、このA+if+Bという言い回しは、AとBに対抗的、あるいはBがAの質を弱める語や表現が入るのがポイントだ。だから、pleasant とawkwardもそのように訳すべきだろう。

ここでちょっと気をつけたいのは、awkwardに「無骨」「朴訥」という訳語を充てると、日本語ではなんとなく、「飾りけがなくて良い人」のようなニュアンスが付いてきてしまうこと。英語のawkwardにそのようなポジティブな意味はないので、訳すときにはそのあたりにも留意したい。

ともあれ、オバマ氏は「awkwardな面はあったが、pleasantに接してくれた」という言い方をしているので、ポジティブな方向でまとめるべきだろう。

翻訳者は原文と密接にかかわるので、ともすれば深読みしがちだ。言外のニュアンスを独自に解釈して訳出してしまったり、もっと言えば、さり気なく意味をずらして訳すことも、やろうと思えばできる。ビスマルクのように。そして国同士の悪感情というのは、小さなすれ違いの積み重ねによって形成されかねない。だから、ひとの言葉を預かり、また他者へと中継する翻訳者はつねに中立を心がける必要があるのだ。

 

symptomを「象徴」としていいのか

オバマ氏の回顧録をさらに読んでみると、なかなか厳しいことが書いてある。その部分をNHKが訳した文章を見てみよう。

就任後に初めて会談した当時の鳩山総理大臣について、「硬直化し、迷走した日本政治の象徴だ」と記すなど、当時の日本政治に厳しい評価を下しています。

この訳文を読むと、鳩山氏ひとりが日本政治の悪い点を代表しているような印象を抱く人が多いだろう。原文では「硬直化し迷走した日本政治」と、たしかに酷評しているが、しかしその批判を鳩山首相ひとりに向けているのではない。

関連記事