食のスペシャリスト&グルメに精通する識者で構成される「FRaU Foodies」が、今イチオシの料理やスイーツなどをお届けします。今回は音楽界の“グルメ番長”ホフディランの小宮山雄飛さんが登場。味はもちろん、ホスピタリティにも感動したというラーメン店を教えていただきました。
素材ひとつひとつにこだわりが光る
ネオクラシカルな「中華そば」
「久しぶりに、一杯のラーメンに感動しました。それは勝本の中華そばです」

京都のホテルでフレンチの総料理長を務めた店主が手掛けるお店。東京・神保町、銀座、虎ノ門に店を構えており、それぞれ違ったラーメンを提供しています。今回取材したのは水道橋にある1号店。オーソドックスな“中華そば”がいただけます。

「シンプルかつ王道の醤油ラーメンですが、実に奥深い味わい。麺もスープも具材も絶妙なバランスなのです。
あえて系統で言うならば、永福町の『大勝軒』の流れという感じなのかもしれませんが、インスパイアというレベルではなく、勝本の中華そばとして完璧に出来上がっています」

勝本の中華そばの根源となるのが、スープ。名古屋コーチンをはじめとする鶏のさまざまな部位と豚のゲンコツ、削り節に煮干しを使用しています。
煮干しは、九十九里をメインに、平子イワシと片口イワシでそれぞれ質の異なるものを各2種類の合計4種類。 直接産地へ出向き、状態や個体のバランスなどを吟味し、仕入れています。
天気や気温、日々その違いを感じながら対話するようにスープを作るそう。
また、かえし(タレ)の醤油にも魚介の節を加えているため、レンゲからスープを口に含めば、煮干しなどの魚介の香りがフワッと広がります。

「スープを覆う香味油が温度をいつまでも保ち、麺のコシとスープとのバランスが絶妙。チャーシュー、メンマなどの具材もそれぞれ単体で『美味しい!』と思わせてくれます。シンプルなのに最後まで飽きさせない抜群の構成です」
雄飛さんを「美味しい!」と思わせた具材には、そのひとつひとつにこだわりが潜んでいます。
チャーシューは、スープによって部位を使い分け、その部位ごとに調理法を変えています。中華そばのチャーシューは、醤油ダレで漬け込んだ豚肩ロース。さっぱりとした肉質も相まって、やさしい味わいのスープとの相性抜群です。

麺は、スープに合わせて作り上げた特製麺。名だたるラーメン店が指名する製麺所「浅草開化楼」から毎日作りたてを選んでもらっています。つるっと喉越しのいい中細ストレート麺です。

中華そばの上に鎮座するネギは、江戸伝統野菜の千佳葱。毎朝、専門の葱屋から根付きで届きます。切りたてのみずみずしさ、爽やかな香り。薬味として最高の仕事を果たしています。
それ自体に感動するお客さんも多いという海苔は、寿司屋でも使われる海苔を使用。パリッとしながらもスープにスッと溶け、磯の香りを楽しめます。こちらは、築地の老舗「丸山海苔店」の物です。
素材ひとつひとつに理由があり、それらが一杯の丼の中に収められた中華そばはまるで小宇宙。
卓上の調味料には、黒胡椒や一味などを用意。それらを加えて味の変化を楽しむのも一興です。