究極の精度に挑む!「秒」の定義を書き換える「光格子時計」とは何か

「物理定数」は本当に一定不変?
中川 隆夫, ブルーバックス編集部

2億年に1秒のズレを補正

標準時が狂うとみんなが困るのは想像がつきます。でも、どれくらいの狂いが生じるものなのですか?

「世界の標準時をチェックしているセシウム原子時計は、3000万~2億年に1秒くらいのズレを生じるといわれています。現時点で、10のマイナス16乗の精度です。光格子時計は、これよりさらに2ケタ高い、10のマイナス18乗の精度を可能にします」(赤松さん)

【写真】赤松大輔さん時間標準研究グループ主任研究員・赤松大輔さん

ちょっと思い出してみよう。

2019年に1キログラムの定義改定がおこなわれたとき、同じく産総研の臼田孝さんたちを取材させていただいた(記事〈まもなく、「キログラムの定義」が変わる日がやってくる〉参照)。そのときは確か、1キログラムの分銅に1億分の5程度の誤差が見えてきたから改定に至ったということだった。これは、10のマイナス8乗の精度だ。

つまり、時間の標準は現在でもすでに、このキログラムの定義よりも8ケタも高い精度を誇っている。この圧倒的な精度こそが、「時間」計測の特徴だ。キログラムやメートルなど、基準単位のなかでも特に細かく測れるのが時間なのだ。

それをさらに、精緻化していく……? ムムッ!

世界の標準時はどう決める?

いったん視点を変えて、世界の標準時はどうやって決められているのか。イギリスのグリニッジ天文台が決めている?

「各国が決めたその国の標準時を、人工衛星を使って、世界のセシウム原子時計と比較しながら時間を合わせています。日本でも同じように、人工衛星を通じて標準時が正確かどうかを確認しています。

現実には、セシウム原子時計より精度の低い水素メーザー原子時計が時を刻んでいますが、誤差を含めて、精度の高い時計と比較して時間合わせをおこなっているのです」(小林さん)

つまり、世界標準時は、“世界の合意”によって形成されている。その昔、時間は天体の動きに従っていたが、いまは天体の動きより正確な原子の振動を基準に時計を進めている。「うるう秒」をときどきはさんでいるのは、その天体とのつじつまを合わせるためだという。

1956年までは、地球の自転をもとに1秒を定義していた(1秒=1/8万6400日)。これが10のマイナス8乗程度の精度だった。次に、太陽のまわりを回る地球の公転から1秒を定義し直し(1秒=1/3155億6925万9747年)、精度も10ケタに上がった。

1967年からは、セシウム133原子の固有の振動から1秒を定義することになり、以降の50年をかけて原子時計の精度を上げ、ついに16ケタまで到達した。

「考え方は昔と同じなんです。振り子時計は1秒間に1回振動する数を数えていって、時計が進む。原子時計は、セシウム原子に、ある特定の電磁波と相互作用する性質があり、それを利用して振動数を数えていく。一定数の振動を1秒として定義するなら、より細かく振動してくれる原子のほうが、より精度の高い時計となるというわけです」(赤松さん)

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