究極の精度に挑む!「秒」の定義を書き換える「光格子時計」とは何か

「物理定数」は本当に一定不変?
中川 隆夫, ブルーバックス編集部

秒を「再定義」するための熾烈な競争

国際度量衡委員会は、1967年に定めた「秒の定義」を、現在のセシウム原子の周波数差から、光に基づく定義へと変更すべく動いている。今より2ケタ高い精度で、「1秒」を定義し直そうというわけだ。

“その時”に備えて、さまざまな研究者たちがしのぎを削っている。

「セシウム原子では、もうこれ以上の精度は出せないだろうと考えられています。そこで、次世代の秒の定義のために、私たちが取り組んでいる光格子時計や、そのライバルである単一イオン原子時計などが、計測器としての候補の座を争っているんです」(赤松さん)

【写真】小林さんと赤松さん世界の標準となる時計にしたいと語る小林さん(左)と赤松さん

「産総研を含む世界で5機関の光格子時計が、世界の標準時をチェックする能力があるとして、委員会にお墨付きをもらっています。その中の1つとして、定常的に世界の標準時のチェックをおこない、光格子時計の優位性を示していきたいと思っています」(小林さん)

相対性理論を体感できる

キログラムやメートル、アンペアなどの国際単位系のなかでも圧倒的に精度が高い「秒」だが、さらに精度を高めていくことで、新しい世界や技術も見えはじめている。

前出の香取秀俊教授の研究では、アインシュタインの「重力によって時間の流れは変わる」という一般相対性理論をもとに、別々に置いた光格子時計の時間の流れの違いを計測したという。地球の重力を受けている地上で、光格子時計を縦(上下)に2台置き、それぞれの時間の流れが違うことを確認している。実験室レベルでは、1センチの差があれば光格子時計で計測できるのだという。

【写真】アインシュタイン「重力によって時間の流れが変わる」ことを提唱したアインシュタイン photo by gettyimages

まさに驚異の計測だが、それこそが、この研究の面白みだと2人は感じている。

「秒や周波数は、物理量のなかでも最も誤差なく測ることができる量です。その点がまず、単純に面白い。『正確性の魅力』がこの研究に入ったきっかけです」(赤松さん)

「18ケタの精度で何かを測定できるものは他にありません。基礎物理定数というものが、本当にずっと一定で不変なものなのかということを、光格子時計で検証することができるのではないか。その点に興味深さを感じています」(小林さん)

私たちの腕時計には正直、18ケタもの精度は必要ない。せいぜい標準時をひんぱんにチェックしているスマホの時計を見ていれば、日常生活では十分に間に合う。

しかし、それらの時計の正確性をチェックしてくれる時計は、ケタ違いの精度が要求されるのだ。

また、生活の時間を測る以上に、細かく正確な時間を刻むことができる時計は、時間とはまた別の計測を可能にしてくれそうだ。精度の高い計測は、そんな可能性を秘めているのである。

  PROFILE 
【写真】プロフィール・赤松さんと小林さん

国立研究開発法人 産業技術総合研究所 
計量標準総合センター 時間標準研究グループ

赤松 大輔(あかまつ・だいすけ、写真左)主任研究員

小林 拓実(こばやし・たくみ、写真右)主任研究員

現在、国際原子時や協定世界時は、1秒の定義であるセシウム原子時計によって校正がおこなわれています。将来の秒の定義の候補である光格子時計は、セシウム原子時計よりも精度が高いことが示されており、今後、この高精度な光格子時計を用いて、どのように国際原子時を運用するかは重要な研究課題です。

特に、光格子時計を連続、あるいは定期的に運用できるシステムの開発が求められていました。

今回の研究結果では、光格子時計の半年間にわたる高稼働率運転を達成し、国際原子時の1秒の長さの校正に寄与しました。今後も、定常的に光格子時計を運用し、秒の再定義に向けた貢献を目指します。

取材協力:

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