シスターフッド、男子バディ…文学ではせめて連帯を!2020年必読の23冊
ステイホームな年末年始の推薦本・後編今年の暮れにもやってまいりました。年末ジャンボおすすめブックリスト。今年の年末ジャンボはスタイルを変えて、日本文学・海外文学という仕切りをはずしました。2020年という特異な年を振り返る意味で、新刊書以外もご紹介します。
では、ブックリストの続きです。
【前編はこちら】→『コロナ禍で100万部ベストセラーが誕生!2020年に読むべき23冊』
シスターフッド&バディフッド
今年、フェミニズムの流れで光が当てられたのは「シスターフッド」という概念だろう。広義に、女性同士の絆、連帯、恋愛関係も指す。前編で挙げた『持続可能な魂の利用』(松田青子、中央公論新社)や、身のまわりに殺人事件を引き寄せてしまう体質の名探偵トランジと、親友ピエタのバディ女子探偵物語『ピエタとトランジ〈完全版〉』(藤野可織、講談社)なども、その意味でたいへん話題になった。
『ババヤガの夜』はシスターフッド文学をあらゆる意味で刷新するシスターバイオレンスアクション。暴力団会長家の美しきお嬢と、フュリオサ級に凶悪な女ボディガードの、抜群に胸アツの小説だ。家父長制や因習社会に敢然と立ち向かう彼女たちは、女性同士の新たな絆の形を提示する。どの場面をとっても最高のかっこよさ。映画化を希望するが、本作のラストはひょっとして、男子バディ映画の代表作『サンダーボルト』(C・イーストウッド、J・ブリッジス主演)へのカウンターですか?
15 マーガレット・アトウッド『誓願』鴻巣友季子/訳 早川書房
自訳書は入れないつもりでいたが、編集部の要望もあり紹介することに。Huluでドラマ化され世界的ヒットを飛ばしているディストピア小説『侍女の物語』の十五年後の続編だ。舞台は、環境汚染などにより少子化の進んだアメリカ合衆国に誕生した独裁神権国家「ギレアデ共和国」。過激な男女差別化政策をとる同国では、女性が「侍女」という名の「産む道具」にさせられている。『侍女の物語』は出口の見えない閉塞的な状況を闇の内側から語っていたが、『誓願』はその闇を出ていく物語と言えるだろう。
語り手は三人の女性。男性が統治し女性は職業にも就けないギレアデで、権力の座に昇りつめた戦略家の幹部女性、支配層の司令官の娘で十三歳で結婚を強制される少女(日本では性交同意年齢の十三歳からの引き上げが見送られたが)、隣国カナダで古着屋の父母のもとに育った少女。ギレアデでは、女性は読み書きを禁じられ、教育機会を奪われ、レイプはもみ消されるか、女性が「誘った」として罪を着せられる。ギレアデはどのような腐敗の道をたどるのか。これは、奪われた言葉と知を取り戻そうとする女性たちの連帯の物語でもある。
さて、本作は男子バディもので、ふたりの高校生詩人が登場する。翻訳家/詩人の両親をもち、本人も詩の専門誌に作品が載り、文芸誌の新人賞でも快調のサラブレット「あたる」と、母親と二人暮らしで、投稿した詩がやっと一回佳作になった語り手の「毅」。ここに、この文学少年たちよりよっぽど言語強者の高校生女子「さとか」と「蕾」がからみ、容赦ない言葉攻めにあわせる。
毅は「あたるの言っていることの反響や残響でしか、なにも考えられない気がしていた」と弱音を吐くが、ある日、あたるの作品を先取りして模倣するAIアカウントがネット上に現れる。オリジナルとはなにか? 青いような、酸っぱいような創作論などを展開する高校生男子ふたりも最高だし、個人的には「ぽみ」と通称される蕾さまが推しですね。作者は文学界きっての「ヴァージニア・ウルフ読み」であり、ばりばりの「ウルフ情景論」など織り交ぜられているのも読みどころ。今年いちばん楽しんだ一冊。