アリオラムスが亜成体ではない確たる証拠
この時代の江西省には、全長20メートルくらいの巨大な竜脚類ガンナンサウルスや、多くのオビラプトロサウルス類が棲んでいました。
発見されたキアンゾウサウルスは、たくさんのパーツが見つかっている「全身骨格」でした。頭骨も非常に保存状態がよく、面長なフォルムがよくわかります。
他のティラノ軍団一軍メンバーは、吻部(鼻先から眼までの長さ)が頭骨全体の6割くらいであるのに対し、キアンゾウサウルスは7割もあります。同じ大きさのタルボサウルスと比べると、吻部が35%も長いのです。面長の度合いは、あのアリオラムスに匹敵します。

アリオラムスは亜成体であるという仮説に対し、キアンゾウサウルスはほぼ成体で、体重も倍以上の757キロ。「面長=亜成体」という考えを払拭するには十分なもので、面長のティラノ軍団が存在していたことを示す、まぎれもない証拠となりました。
ちなみにもうひとつおもしろい特徴として、キアンゾウサウルスとアリオラムスはいずれも前後に長い骨を頭の上に持ち、鼻骨の表面がゴツゴツしていました。他のティラノ軍団にも、目の周りの骨(涙骨、後眼窩骨、頬骨)に角状の突起やイボ状の突起を持つものが少なくありません。
実はこれらはすべて、「オシャレ」のためなんです。飾りやコミュニケーションをとるための道具として役立ったとされ、キアンゾウサウルスとアリオラムスにしか見られない鼻骨のゴツゴツもまた、彼ら独特のオシャレだったのかもしれません。
さて、この研究でもティラノ軍団のメンバー選定(系統解析)がおこなわれています。その結果をまとめると次の通り。
・キアンゾウサウルスは一軍メンバー入り
・アリオラムスも一軍メンバーに復帰
・キアンゾウサウルスとアリオラムスは一軍の中でも独自の面長グループに属し、それをアリオラムス類と呼ぶ
・ビスタヒエベルソルは二軍落ち
つまりこの研究で、ティラノ軍団の一軍メンバーは大きく3つのグループに分けられることがわかりました。
スターメンバーとその予備軍
・ティラノサウルス(スターメンバー)
・ズケンティラヌス(スターメンバー)
・タルボサウルス(スターメンバー)
・ダスプレトサウルス(スター予備軍)
・テラトフォネウス(スター予備軍)

面長の一軍メンバー(アリオラムス類)
・アリオラムス
・キアンゾウサウルス
カナダの「スリム」メンバー(アルバートサウルス亜科)
・アルバートサウルス
・ゴルゴサウルス

これまで知られていなかった「面長メンバー」がティラノ軍団の一軍に登場したことは、この研究の大きな成果と言えるでしょう。
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次回『ティラノ軍団の巨大化はどのように起こったのか? 軍団員を一覧で紹介!』
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