もちろん佐藤さん夫婦は、息子さんたちに辞めた理由を問いただしました。すると真一さんからは「人間関係がつらすぎて、仕事を続けるのは無理だった」と言われ、裕和さんからは「今まで無理して働いてきたんだ。これからは好きなことをするよ」と言われました。佐藤さん夫婦は事態が呑み込めず、しばらく茫然としたまま過ごしたといいます。
時間の経過とともにわかってきたのは、息子さんは2人とも心療内科にかかっていたという事実です。2人とも、診断結果はうつ病とのこと。

特に3年前に退職した裕和さんは、うつ状態がかなりひどく、退職後は布団から出られない日も少なくありませんでした。彼はもともとおとなしい性格で休日は自宅で過ごす時間が長く、現在ではスマートフォンさえ、解約して「外の世界」とは断絶した暮らしをしています。ハローワークへ行く気もなさそうだと、隆一さんは言います。
一方の真一さんは退職後、数回程度はハローワークに行ったようですが、「自分に合った仕事がない」とのことで、徐々に足が遠のいてしまいました。退職時には1000万円を超える年収があったため、ハローワークで見かける求人票の収入欄に書かれた金額は、「安すぎてパートのようにしか思えない」と言います。2人は生活費を佐藤さんご夫婦に頼りつつ、自宅で一緒に生活していました。
かつては「完璧な家族」だった
振り返ってみれば佐藤さん一家は、真一さんが会社を辞めた5年ほど前まで、近所の人がうらやむ豊かで幸せそうな家庭でした。