買い物は近所のスーパーが閉まる直前に行って、ものすごい早さで済ませます。知り合いに会っても、声をかけられないようにするためです。ゴミ出しは朝一番で、人が少ない時間におこなっています。ゴミの収集所に知った顔があると、Uターンをして、しばらく経って誰もいないのを確かめてから出すようにするほど、近所との付き合いを徹底的に避けて暮らしています。

子ども2人が一流大学を卒業し、一部上場企業に勤めていることもあって、かつて佐藤さん夫婦は、近所の人から「息子さんたちが優秀でうらやましい」と言われ続けてきました。そのため、「息子が2人ともひきこもっている」などという現在の姿は、絶対に知られたくなかったのです。
自分たちが死んだ後も、アパートの家賃収入があれば食べていけるとは思うものの、息子さんたちに家を譲るころには、建物が築50年近くになり、建て替えの必要が出てきます。建て替えないと古すぎて借り手が見つからず、息子さんたちが家賃収入を得るのは厳しそうです。
本来は息子さんたちが結婚したら、2人で資金を出し合ってアパートを建て替えてもらい、佐藤さん夫婦も資金の一部を援助しようと考えていました。しかし無職の息子さんたちはそもそも生活費すら親に頼っている状態で、銀行から建て替え資金を借りるのは難しいでしょう。佐藤さん夫婦が老後のために思い描いていた建て替えプランは、根底から崩れてしまいました。
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