コロンビアの自社農園で採れるカカオ豆からつくられる生チョコレートの製造・販売を行う「MAISON CACAO(メゾンカカオ)」。良質なカカオならではの風味、水分量を限界まで高めたとろけるような舌ざわりなど、製品の魅力はさることながら、「MAISON CACAO」の魅力を語る核となる部分に「Farm to Customer」という理念がある。

創始者・石原紳伍さんの心を突き動かしたのは、コロンビアで食べたもぎたての生カカオだった。そこからはじまったコロンビアのカカオ農園を舞台に繰り広げられる“生産者と生活者をつなぐ”ドラマ。芳醇な生カカオの風味を文字に乗せてお届けしよう。

日本が世界に誇るチョコレート文化をつくりたい

遡ること7年前の秋。もともと旅好きで一年の3分の1を海外で過ごしていた石原さんは、ひょんなきっかけでコロンビアに降り立った。そこは、町全体がチョコレートの香りに包まれたマニサレスという、カカオを収穫するトラクターとチョコレートドリンクを飲む人々が行き交うにぎやかな町だったという。この地ではじめて生のカカオを食べ、そのおいしさに衝撃を受けた石原さんは、チョコレートが日常的に存在するその光景に心を奪われた。

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「僕はもともと偏頭痛持ちで、チョコレート(100円台で買える砂糖が大量に使われているもの)を食べると、血糖値が急に上がってめまいを起こすことがあり、ずっとチョコレートが苦手でした。でも、コロンビアで生のカカオを食べてチョコレートの概念が変わりましたね。原料となるカカオが、こんなにもおいしいフルーツだったなんて、知りませんでしたから」

「チョコレートが日常にある文化をつくって、世界に発信したい」

カカオが暮らしに溶け込んだ町の光景を目の当たりにし、そんな思いが沸き起こった。

今でもチョコレートへの苦手意識はあるが、生カカオのおいしさは格別だという Photo by MAISON CACAO

帰国後、早速チョコレートブランドを立ち上げる準備を始めた石原さんが取り掛かったのは、コロンビアにカカオ農園をつくること。カカオ豆の生産から発酵、乾燥、ロースト、コンチング(かくはん機で滑らかにする作業のこと)までのプロセスをすべてコロンビアで行い、そこでつくられたクーベルチュール(チョコレートの原料)を日本に運び、自社工場で製品にする。つまり、カカオ豆をコロンビアから輸入し、日本で製造・販売を行うビーントゥバーではなく、種を撒いてカカオ豆を栽培するところから自分たちで行うというのだ。

「せっかくなら二世代、三世代と、世代を超えて100年続くブランドにしたい。“文化をつくる”というのは、そういうことですよね。現地のパートナー企業と自社農園をコロンビアに保有し、生産者とともにものづくりを行うことで、彼らの生活環境を整えながら長く続く形を目指していけたらと考えました。『自社農園を保有したい』というよりは、カカオの良質なクオリティと理想的なパートナーシップを築くには必然でした」

本店となる一号店を鎌倉にオープンした当初は、まだ自社農園を持たず、コロンビアの農家さんがつくったクーベルチュールを日本に運び、店の厨房で製造を行っていた。ブランドコンセプトに「Farm to Customer(生産者と生活者をつなぐ)」を掲げた理由のひとつに、ある農家さんから聞かされた悲痛な声があったと話す。

Photo by MAISON CACAO
毎朝8時から働く生産者たち。コロンビア人は日本人と似て勤勉なのだそう Photo by MAISON CACAO

「農家さんの中には、カカオ豆を買いに現地の農園を訪れ、いい話を持ちかけといてその後一向に来ないとか、ブランディングのためだけに自社農園をつくる外国人が多く、真の部分で長く付き合っていけるパートナーを見つけるのが難しいと嘆く人もいた」

それならばと立ち上がった石原さんは、現地の農家さんの信頼を勝ち取った。その証として、自社農園を保有するだけでなく、現在2000近い現地の農家さんのカカオを使用している。汗をかきながら生産者と心を通わす石原さんの姿を想像する。一体その溢れ出る情熱はどこから湧いて出てくるのだろうか。