「口だけのお詫び」

子どもが友達に差別的な言葉を口にしたとする。それを聞いた大人は、「ひどいことを言って!ちゃんと謝りなさい」というだろう。しかしただ単に「ごめんね」と口だけのお詫びをしても、その子の意識が変わらなければ、同じことを繰りかえすだろう。最も大切なことは「なぜ差別にあたるのか」を理解し、差別される側の気持ちを理解し、差別的な考え方そのものを改めることだ。

東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長が2月4日に行った記者会見はまさに「口だけのお詫び」のようではなかったか。

2020年2月4日の謝罪会見。声を荒げるシーンも Photo by Getty Images
 

森会長が日本オリンピック委員会(JOC)評議員会で女性の理事を40%に増やす方向にあることにふれ、「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」と発言したのは2月3日のこと。「女性は優れており、競争意識が強い。誰か一人が手を挙げて言われると、自分も言わないといけないと思うんでしょうね。それでみんな発言される」と続けた。さらに「私どもの組織委にも女性は何人いる? 7人くらいかな。みんなわきまえておられる」と続けた。その言葉を受け、「#わきまえない女」というハッシュタグがTwitterでトレンドとなるほどだった。

何度聞いても読んでも「会議で意見を言うことがいけないことなのか」「意見をいうと必ずしも理事会は『不要な』時間がかかるのか」「そもそも意見を言わない理事は必要なのか」「男性は長い意見を言わないのか」など、頭にはてなマークがついてしまう。ここでわかったのは、森会長に「会議を短く終えるために女性はわきまえて意見など言わなくていい」という認識があるということと、「そもそも女性は競争意識が強く、それゆえに発言するものだ」と決めつけているということだ。むしろ「女性は優れており」と褒め言葉を用いながらそれを問題点のように語る褒め殺しのようなものの言い方も不快に思う人は少なくないだろう。

翌日、即座に設定された謝罪会見の冒頭で、森会長は紙を読み上げてお詫びと反省の辞を伝えたが、自身がなにをもって「不適切」と思い、どう「反省」しているのかは具体的に語られなかった。記者たちが丁寧に根気強く質問を続けていたが、「面白おかしく書こうとしてるんだろ」「あなたはどう思うんだ」という逆切れと言われても仕方のない状況に終わった。

ソウル五輪で柔道銅メダルをとり、現在JOC理事となっている山口香氏は、東京スポーツの取材で森会長への苦言を呈した Photo by Getty Images