尾崎世界観さん「デビュー9年目の今が、一番苦しい時期かもしれない」

「一瞬で消費される」ことへの不安
神田 桂一 プロフィール

小説を読むって、大変なことですよ。音楽なら作業をしたり、風景をみたり「ながら」でも聴けます。小説を読むときは、それしかできない。大切な時間を割いて、自分の作品と向き合ってくれた人たちには感謝したいです。

「現実の自分」をファンに差し出す

――作品の内容に入っていきたいと思います。「グレー」なマッサージ店で働く母親の姿を、娘がカーテン越しに見ている。この設定は、どこから生まれたのでしょうか。

小さな町の商店街に個人経営の整体院があり、数年前までそこによく通っていました。ある日、たまたま横のベッドで女の子が宿題をやっている姿が見えたんです。

もしこの整体がいかがわしい営業をする店だったら、この女の子はどんなことを感じるだろうか。カーテンの向こう側で起きていることを、どう理解するだろうか。

考え出したら止まらなくて。きっとその女の子は、外から入ってくる情報をうまく処理できないストレスを感じるはずだと思いました。

Photo by 廣瀬萌恵里
 

その感覚は、僕自身がずっと抱えてきた苦痛とも結びついています。5年ほど前から、身体がうまく使えなくなって、歌いたくても声が出ないことが度々ありました。いまだに、思い通りにならない身体と向き合いながら音楽をやっています。

だからこそ「身体で感じること」と「頭で考えること」が結びつかない苦しみを、小説で表現したいと思いました。マッサージ店という設定には縛りがありましたが、書いているのは自分がいつも感じている感覚そのもの。「入ってくる情報をうまく理解できない女の子」を通して、「声を出したいのに、うまく歌えない自分」に対する答えを出そうとしました。

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