尾崎世界観さん「デビュー9年目の今が、一番苦しい時期かもしれない」

「一瞬で消費される」ことへの不安
神田 桂一 プロフィール

――主人公は、母親がマッサージ店で客に施す「性的な行為」に戸惑い、ショックを受けます。同じように、子供から大人になっていく過程で、完璧だった母親が弱い存在や、性的な対象であることに気づかされる人は多いように感じます。つまり、幻想だった母親像が崩れ、現実の母と向き合うことになるわけです。

それは面白いですね。たしかに『母影』の中でも、母親を「丸い玉」と表現するシーンがあります。でも、女の子が大きくなる中で「ママの形もだんだん変わってきた」と感じます。しかもその母親が、知能に「遅れがある」と他者から指摘され、主人公もそれを認識させられることになります。

ただ、自分の場合は、母親に対して「幻想が崩れた」と感じたことはないんです。母親に「こうしてほしい」「こうあってほしい」と思うこともなくて。この本を書いた後、よくインタビューでも聞かれましたが、母親との関係は良好です(笑)。

 

「幻想が壊れて、現実と向き合う」という構図は、むしろファンと自分自身の関係なのかもしれません。ミュージシャンは、ファンに幻想を抱かせる商売でもありますよね。でも「本当の自分はこんな人間です」ということがバレると、その幻想が壊れてしまう。

だから、みんなが抱くイメージをなるべく「現実の自分」に近づけておきたいんです。バレる前に自分から先に差し出してしまおうという考えです。それを、作品を通してやりたい。それはもちろん、自分を守りたいという本能でもあります。

つまり「グレー」であり続けることが重要なんです。お金を貰っている以上、アーティストだって100%善意だけではできません。永遠にファンを裏切らない、いい人間でいられるかも分からない。

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