サイバー攻撃に備えよ!混乱する世界で暗躍するロシアのしたたかさ

新刊『ハイブリッド戦争』著者エッセイ
デジタル化の流れが加速度的に進む中、世界各地でサイバー攻撃のリスクが高まっている。近年では、国家によるサイバー攻撃の被害も深刻化しており、特にロシアの動きが目立つ。迫り来るサイバーの脅威に、日本はどう立ち向かえばよいのか。現代新書の最新刊『ハイブリッド戦争 ロシアの新しい国家戦略』の著者で国際政治学者の廣瀬陽子氏(慶應義塾大学教授)によるエッセイを特別にお届けする。

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     「ロシアが展開するハイブリッド戦争の脅威」

サイバー問題の脅威が高まる中でのホワイトハッカー

新型コロナウイルス感染症問題で、2020年に予定されていた東京五輪・パラリンピックが1年延期され、現在も今年の開催についてさまざまな議論が展開されているところではあるが、年始早々に興味深いニュースが報じられた。

大会組織委員会が、サイバー攻撃に対処するために220人の「ホワイトハッカー」を養成したというのである。大会組織委員会のホワイトハッカーは、民間企業からの出向者が中心となっており、国立研究開発法人の情報通信研究機構が「サイバーコロッセオ」という訓練プログラムなどによって要請したという。

五輪以外の場でも、サイバー対策は重要となっており、電力や交通など重要インフラの麻痺を狙ったサイバー攻撃を想定して、インフラ業者が業界ごとに民間組織を結成し、情報共有や攻撃に対処するための演習をおこなっているという(『中日新聞』2021年1月5日)。

そして、そのような動きはもっと早くからあった。たとえば、政府は2017年4月から、東京五輪開催に向けて、ホワイトハッカーを発掘・育成するための政府主導のプログラムを開始していた。

最初の募集では、359名の応募があり、選ばれた受講生には10歳の小学生や14歳の中学生も含まれていたという。また、2018年9月には、ハッカーへの正しい認知向上と活躍を促進し、人材紹介や法的支援などによって、企業とハッカーの橋渡しをおこなうことを目的とした一般社団法人「日本ハッカー協会」も設立されていた。

そのようななかで大会組織委員会がホワイトハッカーを要請した背景には、五輪・パラリンピック関連のサイバー攻撃がおこなわれることへの脅威があった。

実際、2018年の平昌オリンピックでは開会式当日にサイバー攻撃によってシステム障害が発生していたし、20年10月19日には英外務省が、ロシアが東京オリンピック・パラリンピックをサイバー攻撃で妨害しようとしていたと発表した経緯もあった。

ホワイトハッカーとブラックハッカー

さらに、コロナ問題で、昨年から世界のデジタル化は加速度的に進んでおり、そのことは、ただでさえ、近年深刻度を増していたサイバーの脅威が顕著に増幅することを意味する。

ホワイトハッカーという言葉は馴染みが薄いかもしれないが、ITに関する高度な知識と技術を備えたサイバー・セキュリティの専門家で、さまざまなITシステムの脆弱性を突き止めて攻撃を予防したり、外部からの攻撃を防止したりして、セキュリティを守っている。ちなみに、一般的に「ハッカー」と呼ばれているのは、やはり高度なITの技術や知識を持ちながらも、それを犯罪などに使う「ブラックハッカー」である。後者は、さまざまなシステムに進入して情報を盗んだり、システムを書き換えたりして、損害を与えたり、混乱させたりする。

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このように同じITエキスパートでも、善良な目的のIT技術を使うホワイトハッカーと犯罪行為のためにIT技術を使うブラックハッカーは、サイバー空間であらゆるレベルにおいて抗争を展開しているのである。

サイバー空間の戦いにおいては、攻撃と防御が表裏一体となるため、敵を泳がせることでその動きを観察し、正体を突き止めるような方法も必要となる。そのため、ホワイトハッカーの需要は高まっており、日本最大のハッカー大会と呼ばれている「SECCON」をはじめとしたセキュリティ関連のコンテストの上位入賞者には、特に注目が集まっている。