2021年の米国政治の混乱の背後で蠢くロシア
前述のサイバー攻撃によって詐取した情報をロシアがどのように利用したのか、これからするのか、それは現状ではわかっていないが、2021年1月の米国政治の混乱にもロシアの影がちらついていたと言えそうであり、今後の動向にも注目が集まっている。
そもそも、2020年の米大統領選挙で、ロシアにとって望ましかったのはトランプの勝利であった。そのため、選挙後、バイデンの勝利が確実視されるようになった後でも、ロシアのプーチン大統領は沈黙を守り、バイデンの当選を祝福するメッセージを送ったのは、当選が確実になった12月15日と非常に遅い段階になってからだった。

そして、年が明け、2021年1月6日に米国で議会占拠事件が起こると、中露のメディアは米国が他国に民主主義を押しつける資格を失ったと酷評し、露外務省のザファロヴァ情報局長も、悪いのは選挙結果を覆そうとしたと極右のトランプ主義者ではなく、米国民主主義だと批判した。
そして、このあたりから今となっては米国の不安材料ともいえる極右のトランプ主義者とロシアとの関係が危惧されるようになってきた。
まず、議会占拠事件を煽ったとして、Facebook、Twitterがトランプ元大統領のアカウントを凍結したが、それに伴い、極右のトランプ主義者たちが、ロシアのSNSに流出する傾向が出ている。
ロシア政府に制御される米極右勢力の動き
特に、ロシア版FacebookないしYou Tubeと呼ばれるロシア最大のSNSであるVKontakte(フコンタクテ:VK)への流出が顕著であるという。そうなると、ロシアがトランプ主義者たちの動きを把握することが容易となり、米国政治を混乱させる材料を入手してしまうかもしれない。
実際、トランプはVKの招待により、2016年に同サイトにアカウントを作ったことが確認されている。だが、同アカウントへの書き込みは少なく、フォロワーも4349人と少ないため(2021年2月14日現在)、VKを脅威と感じる必要は現状ではなさそうだ。
他方、議会占拠事件を受け、極右に人気のSNS「Parler」も多くの米国のIT企業から締め出された。Parlerは日本ではあまり馴染みがないが、2018年に開設されたTwitterに似たSNSで、トランプ支持者に人気があったとされる。
事件後、Parlerは、1週間ほど完全に停止されたが、ロシアのデジタルインフラ企業DDoS-Guardと契約し、際限なく続くDDoS攻撃から防御してもらいつつ、なんとか部分的に復活を遂げたという。
分散型サービス拒否攻撃(Distributed Denial of Service attack)。ウェブサイトやサーバーに対して複数のコンピューターから過剰なアクセスやデータを大量に送付するサイバー攻撃のこと。
DDoS-Guardは、あくまでも攻撃に対する防御をおこなっているだけで、Parlerのサイトをホスティングしているわけではないと主張しているが、防御だけでも、同社がParlerに関連するすべてのトラフィックにアクセスし、有害なものを排除する必要があることから、Parlerの動きをすべて把握できることになる。
ロシア政府は、自国のインターネットを外部から切り離し、すべてのデータへのアクセスを可能にしようとしていることから、このままいけば、Parlerがロシア政府の監視下に置かれる可能性もあるという(Lily Hay Newman「極右に人気のSNS「Parler」がロシア企業頼みで“復活”を模索? それでも問題の解決にならない理由」『WIRED』2021/1/15)。
そうなれば、米国の極右の動きがロシア政府に制御されることにもなりうるのだ。