サイバー攻撃に備えよ!混乱する世界で暗躍するロシアのしたたかさ

新刊『ハイブリッド戦争』著者エッセイ

Qアノンとロシア

なお、米国の極右が提唱している根拠のない陰謀論「Qアノン」信奉者は、トランプ前大統領を支持してきたが、Qアノンと関係が深いとされているのがメッセンジャーアプリ「テレグラム」である。

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テレグラムはSNS、ビデオ・プラットフォーム、非合法なマーケット・プレイスなど多様なものをまとめたものだが、欧州で特に人気があり、世界の人気のメッセンジャーアプリのなかでは5位に位置付けられている。

そして、テレグラムのユーザーは議会占拠事件後、トランプ前大統領のさまざまなアカウントが凍結された後に急増したという。テレグラムの責任者はロシアのIT起業家パーヴェル・デューロフなのだが、デューロフは前述VKを2006年に設立した人物でもある(2014年にVKの社長の座を退き、すべての株も手放した)。

かつて、VKはプーチン政権に抗議するためのネットワークだったが、ロシア当局がVKの抗議グループを閉鎖し、ユーザデータの開示を求めたところ、デューロフはその要求を拒否し、国外に亡命した。そして、2013年にテレグラムを創設したのである。そして、Qアノンは、テレグラムにチャンネルを持ち、そのチャンネルには12万人の加入者がいることから、テレグラムが陰謀論の拡散に一役買っていることがわかる。テレグラムは各国政府がアクセスできない通信チャネルを提供すること、個人のプライバシーを保護することをモットーとしている。

2017年にはFSBがテレグラムにテロリストと思われるユーザーのデータを要求したところ、テレグラムサイドが拒否したため、テレグラムはロシア国内でブロックされたほどだ(ブロックは2020年6月に解除)。

そういう意味ではQアノンの動きがロシア政府に伝えられることはないのだが、テレグラムは米国議会襲撃事件に関する過激な挑発などもブロックせず放置したため、アップストアから削除するよう訴訟も起きているほどで、極右のサポーターとしてみなされている(「トランプ支えるQアノン、ドイツに影響力飛び火 陰謀論が急増する背景」『Newsweek』2020/10/20)およびヴィクトリア・リャビコワ「テレグラムについて知っておくべきこと:5億人のユーザーを持つロシア発のメッセージ・アプリ」『ロシア・ビヨンド』)。

このように、Qアノンの動きもロシア絡みのSNSと関係があるというのは興味深い。

ロシアの脅威を認識すべき

ロシアはサイバー攻撃やサイバー空間で極右勢力を支援することなどによって、米国などに揺さぶりをかけている。バイデン政権はきわめて厳しい対露姿勢をとることが予測され、今後、制裁措置などもつぎつぎに発動されることだろう。

そして、当然ながらこのようなリスクは、日本にとっても対岸の火事ではない。サイバー空間に対岸もなにもないのだ。そのため、冒頭で述べたホワイトハッカー養成をはじめ、多面的な対策をとってゆくことが求められる。

さらに言えば、ロシアは近年「ハイブリッド戦争」と呼ばれる21世紀型の戦争を展開していることから、その脅威はサイバー問題にとどまらず、きわめて多様かつ複雑になっている。

ロシアのハイブリッド戦争については、筆者の近刊『ハイブリッド戦争 ロシアの新しい国家戦略』をお読みいただければ、その脅威がいかに深刻かおわかりいただけるはずだ。今こそ、隣国ロシアの脅威の現実に向き合い、総合的な日本の安全保守対策を検討すべきだろう。