また昨年頃から、軽井広『追放された万能魔法剣士は、皇女殿下の師匠となる』や、2月末に刊行されるメソポ・たみあ『ようこそ「追放者ギルド」へ ~無能なSランクパーティーがどんどん有能な冒険者を追放するので、最弱を集めて最強ギルドを創ります~』などをはじめ、「追放冒険者もの」と呼ばれる作品が人気を得ている。
異世界において、本当は実力を持っているのにパーティーの仲間たちから才能がないと見限られて一度は追放された主人公が、別のパーティーに入ったり転身したりすることで、真の力を発揮して活躍するというものだ。このように「なろう系」小説のトレンドは、少しずつ変化してきている。
変化の背後にあるユーザーの事情
「小説家になろう」における投稿作品の流行は、ゲームの世界観を土台とし、一定の様式を踏まえた上で、他の作品との差別化を狙って形作られていく。その意味では、既存の様式にどういうネタを追加するかという発想の勝負であり、落語の世界の大喜利や三題噺にも似た創作過程なのだ。
まずは人気のある様式に書き手、読者が一斉に集まっていく傾向があるため、人気作が生み出されやすい環境がある一方で、だからこそ生じる課題もある。
「『小説家になろう』インタビュー 文芸に残された経済的活路」によれば、「小説家になろう」では10代から20代の読者がおよそ半分を占め、30代が2割強と続いている。その一方で上位にランクインするような書き手には、人生経験豊富で文章も上手い30、40代が多いという。
書籍化してデビューをする書き手の年齢層が比較的高いのは、「売れるためには流行に合わせるのも仕方がない」とある意味で割り切って、こうした創作環境に適応できているという側面が大きい。
そのため「小説家になろう」にとって、年上相手に戦わざるをえない10代から20代の若い書き手をどこまで引き付けられるかは、今後の大きな課題となるだろう。小説を投稿したり、サイトで読んだりしている高校生・大学生や、実際に自分の作品が書籍化されたことのある作家に話を聞いていくと、流行の変化についていけず、人気の様式が変わると離れてしまう書き手、読者も存在するという。