人間は核を制御できるのかという「根源的な問い」
この東日本壊滅の光景は、2号機危機の局面で、吉田所長だけでなく最前線にいたかなりの当事者の頭をよぎっている。しかし、2号機の格納容器は決定的には破壊されなかった。なぜ、破壊されなかったのか。そこに、決死の覚悟で行われたいくつかの対応策が何らかの形で貢献していたのだろうか。
私たち取材班は、この疑問にこだわって、事故から10年にわたって事故対応の検証取材を続けてきた。この謎を解き明かすことが、人間は核を制御できるのかというこの事故が突きつける根源的な問いの答えに近づけるのではないかと考えたからである。
なぜ、格納容器は破壊されなかったと思うか。免震棟にいた何人もの当事者にも聞いたが、明確な答えは返ってこなかった。原子炉が空焚きになって2時間後に始まった消防注水が奏功したのではないかと水を向けても、事故対応の検証に真摯に向き合っている当事者ほど「証拠がなく安易なことはいえない」と首を振った。
事故から10年。この謎を包んでいた厚いベールが剥がれ始めてきた。

廃炉作業が進むうちに原子炉や格納容器に溶け落ちた核燃料デブリの状態が垣間見えてきたからである。
ベントができず肝心なときに水が入らなかったため過酷な高温高圧状態だったと思われた2号機の原子炉や格納容器の中には、思いのほか溶け残っている金属が多く、予想に反して高温に達していなかったことがわかってきた。その理由は、皮肉にも肝心なときに水が入らなかったことではないかと研究者は指摘している。