10年遅れるロードマップ
最悪シナリオで示された4号機の燃料プールの水がなくなり、高熱の使用済み核燃料がメルトダウンして、大量の放射性物質が放出されなかったのも偶然のなせるわざだった。
4号機プールの水が干上がらなかったのは、たまたま隣接する原子炉ウェルの仕切り板に隙間ができて、大量の水が流れ込んだおかげだった。4号機が水素爆発し、原子炉建屋最上階が壊れたことで、外からの注水が可能になったことも、まさに怪我の功名だった。
爆発前、3号機の格納容器ベントによって排出された放射性物質が流れ込み、4号機の原子炉建屋には人が立ち入れない状態だった。コンクリート注入用の特殊車両を遠隔操作し、燃料プールに冷却水を注入できたのも4号機の爆発があったからに他ならない。


もし、これらの偶然が重なっていなかったら、4号機プールの水位はどんどん低下し、使用済み核燃料がむき出しになる恐れがあった。そうなると最悪シナリオで描かれた恐怖が現実のものになりかねなかったのである。
事故から10年。福島第一原発では、日々廃炉作業が続けられている。最悪シナリオでメルトダウンの恐怖を指摘された4号機の燃料プールには、もう使用済み核燃料の姿はない。
2014年中に取り出しが完了し、3号機の燃料プールからも2021年中に使用済み核燃料が取り出される。取り出しは2号機、1号機と続き、2031年までに5号機、6号機含めすべての使用済み核燃料が取り出されることになっている。
しかし、事故1年後に国と東京電力が掲げた当初のロードマップでは、使用済み核燃料は2021年中にはすべて取り出されることになっていた。実に10年遅れているのである。