門脇:二人が一緒に時間を過ごす一連のシーンも大好きですし、華子がタクシーに乗らずに、一人で歩いて家に帰っていくシーンも好きです。あそこでだんだん心情が変わっていく。

水原:あそこいいよね。手を振るところがあって、そこも好き。華子がようやく人間になった、という気がする。地に足をつけて歩いていく感じ。美紀は、華子の自己が誕生する瞬間に立ち会えた喜びを感じているんじゃないかな。

『あのこは貴族』より

門脇:私もそう思う。華子の役の難しさの一つに、順撮りではないのに、繋がったときにちゃんと心情の変化を出していかなければ物語が成立しない、という課題があって。シーン毎にどれぐらい自我を芽生えさせるべきか正解も分からないので、最後まで手探りでした。喋る速度も声のトーンも、シーン毎に、段取りやテストから色々試して調節していきました。

あとは、衣装ですね。最初は親に着せられていたような服から、徐々に、「あ、自分で買ったのかな?」みたいな色が出るような衣装に変えていく。衣装合わせのときも、そこは細かくすり合わせをしました。衣装やメイクに助けられた部分も大きかったです。

 

男社会に縛られた男性はかわいそう

撮影:山本倫子

――正反対の境遇に生きる華子と美紀を結びつけたのが、高良健吾さん演じる幸一郎です。特権階級に生まれた幸一郎は、華子と結婚すると決めながら、美紀には別の魅力を感じている。幸一郎のような男性をどう思いますか?

水原:プライベートでは、極力、会いたくはないタイプです(笑)。幸一郎は、女性を育ちや外見で使い分けているところがあるから。でもその一方で、かわいそうだなって思う部分もあります。本人の意思とは関係ないところで、周囲の期待を一身に受けて、「男たるもの、こうあるべき」みたいなルールを押し付けられている。男社会だからこその男の生きづらさ、自由になれない感じもあるのかな、なんてことは想像しました。

だから現実社会で幸一郎みたいな人に出会いたくはないけど、出会ったら出会ったで、可哀想だと思うかもしれない。美紀も、幸一郎にそういう同情心があったから一緒にいたと思うんです。自分といることで楽しそうな、自由になれている姿を見て、2人の関係に未来はないけれど、それはそれでいいかと思える。美紀なりの母性のようなものかもしれないですね。

『あのこは貴族』より

門脇:私は、もし現実世界に幸一郎のような人が現れたら、山や釣りに誘って、彼がそれまでに出会ったことがないであろう自由を謳歌して生きる私の友達に会わせます。それからウチに呼んで、ご飯をいっぱい作ります!(笑)。とにかく一緒に遊びたいです。そうやってがんじがらめになって生きていかなきゃいけない人に、「今、楽しいな」って感じてもらいたい。お節介かもしれないけど、縁があって出会った人には、楽しい気持ちでいてほしいなって思います。だから、「お腹空いたらいつでもウチに来て。ご飯作るよ!」「遊ぼうよ!」って言いたいですね。