英語の「オペレーション」という言葉は、外交用語というより軍事用語のニュアンスが強いからだ。たとえば「オプス・チーム」と言えば、軍事作戦を展開する小規模部隊を指す。論文は「言葉による外交」と米中央情報局(CIA)が担うような「準軍事作戦」の一環としても「習氏を狙え」と提言しているようにも読める。大胆というほかない。次が2点目。
〈現段階では、中国が米国との軍事衝突を恐れている点を、米国の戦略は理解しておくべきだ。もし米国との戦争が起きれば、中国は負ける。その結果、習氏とその体制は崩壊する。だが、時が経つにつれて、軍事バランスは中国有利に変わる。ただ、東シナ海については、それほどでもない。日本に負けるようなことがあれば(どんな小さな敗北でも)、党にとっては、米国に負ける以上に、政治的威信に対する壊滅的な打撃になるからだ〉
〈だが、南シナ海については、米国は慎重に戦略的な判断をする必要がある。台湾が中国に攻撃されたとき、米軍の直接出動であれ、台湾への軍事支援であれ、米国が対応しなければ、その瞬間に米国への信頼は消え失せる。米国の戦略にとって、台湾防衛は絶対不可欠である〉(本文66〜67ページ)
〈だが、南シナ海については、米国は慎重に戦略的な判断をする必要がある。台湾が中国に攻撃されたとき、米軍の直接出動であれ、台湾への軍事支援であれ、米国が対応しなければ、その瞬間に米国への信頼は消え失せる。米国の戦略にとって、台湾防衛は絶対不可欠である〉(本文66〜67ページ)
台湾は中国の核心的利益であると同時に、米国にとっても核心的利益なのだ。この点はトランプ政権末期になって、一段と鮮明になった(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/75889)。
「次のケナン」になりうるか?
以上、2週にわたって紹介したが、私がこの匿名論文に注目したのは、もしかしたら、論文が触れた中国の分析と対中戦略は今後、数十年にわたって続くであろう、米中対決の基礎になるかもしれない、と思ったからだ。
ジョージ・ケナンが書いた「長い電報」と「X論文」はその後、半世紀近くにわたって続いた対ソ「封じ込め」戦略の基礎になった。ここで描かれた戦略がジョー・バイデン政権の対中戦略になるかどうかは分からない。だが、少なくとも、いくつかの要素は事実上、採用される可能性がある。

それにつけても思うのは、米国のすごさだ。知的政策サークルの厚さが、日本とは比べものにならない。これに限らず、対中戦略をめぐっては、官民問わず、ありとあらゆるシンクタンクなどから発表され、とても全部を読みきれない。
日本に紹介されるのは、半分にも満たないだろう。政府でさえ、十分に把握しているかどうか。メディアは口を開けば「外交で解決を」と言うが、新聞の論説委員を20年近く務めた私の経験で言えば、彼ら自身が外交の選択肢をロクに議論さえしていないのだ。
2月24日公開の「長谷川幸洋と高橋洋一のNEWSチャンネル」は先週に引き続き、前統合幕僚長の河野克俊さんをゲストにお迎えして「私のリーダー論」を議論しました。ぜひ、ご覧ください。