そうなる事態を避けるために、「いや、コロナは治った後もずっと苦しむ、最高度に恐ろしい病気なのだ」(だから、自粛したことにはやはり意味があった)とする物語が必要とされた。昨夏のメディア上での「後遺症」言説の流行に、そうした側面があったことは否定できないだろう。
そしてもうひとつ、私がはじめから「後遺症」言説に違和感をもってきた理由がある。私自身、そもそも新型コロナウイルスが流行するはるか以前に、「咳」と「脱毛」を除く8種類の「後遺症」の症状すべてを、同時に体験したことがあるからだ。
「うつ」でも同じ症状を8つは体験
従来から公表していることだが、私は2014年の夏に重度のうつ状態に陥り、その後約3年間、社会的な活動はほぼできない事態になった(病前の友人と私的に会えるようになるまでにも、1年以上かかっている)。コロナの後遺症(?)の候補に挙げられている「抑うつ」の状態にあったわけだが、病的なうつとは単に「なんとなくやる気が出ない」といった程度のものではない。
近日ある書籍に詳しく体験を記したが、「記憶障害」と「集中力低下」のために、文章を読んでも意味が頭の中に入ってこない(=短期記憶が即座に消えてしまうので、1文字ずつを目で追うことしかできない)。「不眠症」で朝まで眠れない日もざらにあり、多くの患者が睡眠薬を処方される。正式にその病名で診断を受けたわけではないが、「PTSD」のように過去の嫌な記憶がよみがえり、突然恐怖感でうずくまってしまうこともある。

ここまで精神的にぼろぼろの状態だと、当然身体にも症状が出る。「だるさ」があるのは日常茶飯事だし、少し疲労しただけで「息苦しさ」「胸の痛み・違和感」も頻繁に起こる(いわゆるパニック障害を連想してもらうと、わかると思う)。うつの最悪期には、コロナでも一時的に失われるという味覚はおろか、感情自体が全停止する――なにを口に入れても味がせず、一切の外界からの刺激に無反応・無表情になることも、めずらしくない。