地震、台風、洪水…災害の「二次被害」は予測できるのか。テクノロジーの挑戦
東日本大震災から10年という節目に、このような原稿を書く機会を頂いた。大学生のころ、阪神大震災の被害の様子をテレビ報道等でみたことを契機に耐震工学の研究者を志してから、25年以上になる。橋梁の耐震工学の研究者として18年を過ごし、その後は自然災害リスクを評価するシミュレーションモデルを開発するエンジニアとしての経験を積み、この間、2011年東日本大震災、2015年関東豪雨による洪水、2016年熊本地震、2019年の台風15号や台風19号(東日本台風)をはじめとする数々の災害後の現地調査を経験してきた。

現在は、米国シリコンバレー発の防災スタートアップであるワン・コンサーンで、災害科学とAI/機械学習技術の融合により「災害レジリエンス」を評価するモデル(※1)の開発に携わっている。
災害レジリエンスは「災害対応力」を意味する。レジリエンスという概念は従来、外的なリスクに対応する力を意味していたが、東日本大震災をきっかけに未曾有の事態に耐える力や、そこから回復する力、また事前に備える力として災害に関連する文脈で広く使われるようになった。
災害の「間接的な被害」に注目が集まっている
地震や台風・洪水をはじめとする自然災害による被害として、まっさきに挙げられるのは人命や建物の損傷等の直接的な被害だが、電気、水道、ガソリン供給、交通インフラ等の遮断による“間接的な被害”にも、近年注目が集まっている。
政府も「国土強靭化(ナショナル・レジリエンス)、防災・減災の取り組み」を行っており、2018年からの3か年緊急対策においては、人命を守る「防災のための重要インフラ等の機能維持」と電力、上水道など「国民経済・生活を支える重要インフラ等の機能維持」の2つの観点を掲げており、災害後のライフライン施設の機能確保がいかに重要だと考えられているかが分かる。
こうした政府の取り組みはハード的な対策が主となっており、中長期的には、これにより人命や建物に対する直接的な被害のリスクが低減するとともに、ライフライン施設に対する災害レジリエンスが向上していくことが期待されるが、現時点では、最新のテクノロジーを活用して現状の災害レジリエンスを正しく把握し、被害を最小限にできるように備えるというソフト的な対策を検討しておくことが必要である。
毎年のように災害が起きる日本では、自然災害が起きたときに人命や建物に被害が生じることを多くの人が理解している。一方で、上記のような間接的な被害については、何が起こるかまだよくわからないというのが多くの人の印象ではないだろうか。これは、間接的な被害は直接的な被害から波及するものもあり、それがどのように波及するかは複雑な条件や相互関係が絡み合っているためである。
そのため、今の段階では「見えていない」災害リスクを顕在化することがソフト的な対策の第一歩となる。