日本製鉄社長の憤怒
製鉄大手のみならず、その足元の二次メーカーも体力を失いつつある。
茨城県かすみがうら市では近年、小学校の統廃合が相次いでいる。同地に大規模な拠点を置くワイヤー製造メーカー・東京製綱の業績が'10年代以降低迷し、従業員数が減り続けていることが、その理由のひとつだ。同社の関係者が言う。
「この10年ほど霞が浦の人口は右肩下がりを続け、商店も潰れてゆく一方です。うちは創業から100年以上が経っていますが、ずっと物づくり一筋で営業やマーケティングが大の苦手。
グローバル展開が求められる中、なかなか国内市場依存から脱却できず、赤字を垂れ流している。近く抜本的なリストラもあるのではないかと社員は身構えています」
エレベーターなどに使われる鉄鋼ワイヤーの国内最大手である東京製綱は、以前から日本製鉄が筆頭株主だった。しかし先月、その日本製鉄が業績不振を見かねて東京製綱の敵対的TOB(株式公開買い付け)に踏み切り、経済界には衝撃が走った。もはや「後がない」鉄鋼業界の現状を物語る一件と受け止められたのだ。
「国内の鉄鋼需要はすでに頭打ちで、日本の鉄鋼企業は無理にでも海外に打って出なければいけない状況です。しかし日本製鉄をはじめとする大手を含め、確たる戦略もないままここまで来てしまった。このままでは本格的に海外メーカーに太刀打ちできなくなると、ようやく尻に火がついたというわけです」(全国紙経済部デスク)

'90年代までは、当時世界最大手の新日本製鐵を皮切りに、川崎製鉄、住友金属工業の3社が世界の粗鋼生産量トップ10に食い込んでいた。しかし'19年のランキングに目を移すと、トップ10に名前があるのは新日鐵と住友金属が合併して生まれた日本製鉄(3位)のみ。
中国や欧州の製鉄大手は合従連衡を繰り返して急成長を遂げ、価格競争で優位に立っている。日本の各社も、川上から川下まで束にならなければ戦えない状況に追い込まれたのである。
さらにもうひとつ、日本の製鉄各社はいま、致命的な難題に直面している。世界で大きな潮流を形作りつつある、「二酸化炭素排出ゼロ」という足枷をはめられてしまったのだ。
「実現までに10年、20年はかかる。ゼロからの研究開発を、個別の企業でやり続けるのは無理だ」
昨年12月17日、日本製鉄社長で日本鉄鋼連盟会長を務める橋本英二氏は、同連盟の会見でこう声を荒らげた。菅政権が「脱炭素」の徹底を業界に求めてきたことに対する、あからさまな苦言だった。