コロナ禍で在宅勤務やリモート化が多くなり、必ずしも都市部に住まなくとも従来通り仕事が成り立つと感じている人も多く、都会から離れて生活を、と考えている人も少なくない昨今。もし、地方移住をした場合、家賃の安さ、緑豊かで癒される自然、安価に手に入る新鮮な食材など、メリットがいろいろと挙げられると思うが、その反面、きっとデメリットもあるだろう。実際に東京都から長野県へ移住したご家族に、良かった点、逆に大変だった点など、詳しく話を伺った。

 

移住のきっかけは東京での育児の窮屈さ

話を伺ったのは、東京から長野県松本市に約6年前に移住した八木下泉さん(34歳)。かつて住んでいた家は、山手線沿線の駅から徒歩5分以内という好立地のマンション。現在9歳になる長男が3歳、長女はまだ生まれていない頃に移住の話が出たという。

——移住を考えた理由はどんなことがきっかけですか?

もともと私が長野県の中でも人口6万人程度の町出身なこと、夫がアウトドアが好きなこともあり、夫婦間で地方移住の話は軽く出ていたのですが、決め手となった最大の理由は育児環境です。当時、3歳だった息子はとにかく動くのが好きで、数秒も目が離せないほどで活発で。それに加えて、近所にある公園は狭くいつも人で混んでいて、静かにしていなければならない公共機関での移動や、30平米もない手狭な住環境など、子どもを育てるのに不自由を感じることが多々ありました。また、子どもがスーパーなどを走り回って他のお客さんに注意されたり、電車の中で騒いでしまって途中下車するのは日常茶飯事で……。

写真提供/八木下泉

その子どもの活発さを原因とする一番の悩みは、マンションの下の階に住んでいる方からの再三の苦情でした。家の中で飛び跳ねないように言い聞かせたり、防音マットを床に敷いたり、できることはしたつもりでしたが、大家さんと下の階の住人が「一体、家の中はどうなっているのか」と、家の中を見に来るほどにおおごとになってしまい、もうどうしていいのか分からず、塞ぎこんでしまった期間もありました。

寝室とリビングの2部屋しかない家だったので、子どもが成長したら引っ越しをしなくてはならないと考えており、夫とは都内の違う場所に引っ越すか、東京に近い他県に引っ越すかを話し合っていました。そんなとき、夫から「思い切って長野に引っ越さない?」という提案があったのです。私にとっては願ってもない提案でした。

ですが、私の実家に住むのは夫にとって負担になるかもしれないし、移住先での仕事を考えると、もう少し都市部のほうがいい。夫はアパレルを扱う自分のお店を持つことを目標としていたこともあり、県内でもおしゃれなお店が集っている松本市に移住することにしたんです。家族でも何度か訪れたことのある場所だったので、なじみもあり、東京から移住しても生活がしやすく適応しやすそうというのがポイントでした。