SDGsとはサステイナブルな社会にするために国連が2030年までに達成しようと定めた持続可能な開発目標のこと。その17のゴールを「コーヒー」を通して語る一冊が『コーヒーで読み解くSDGs』(ポプラ社)だ。ではゴール3「すべての人の健康的な生活を確保し、福祉を推進する」をコーヒーから読み解くとどうなるのか。貧しいからこそ薬物を売り育てざるを得なかった地域で起こした奇跡について、本書から抜粋紹介にてお伝えする。
世界的に根深い薬物問題
人々が「健康的な生活を確保」し、「福祉を推進」するためには、社会が果たすべき役割はたくさんあります。 ゴール3の「すべての人の健康的な生活を確保し、福祉を推進する」の中で書かれた具体的なターゲットの内容を見ると、1(妊婦の死亡率を減らす)、2(新生児と5歳以下の子どもの死亡率を低下させる)、3(エイズ、結核、マラリア、熱帯病などの伝染病を根絶し、肝炎などの感染症を減らす)などの基礎的な分野は、多くの先進国がすでに達成したものも含まれていることに気づくでしょう。
そういう意味ではゴール3の達成に向けては、先進国が蓄積してきた知識・技術を開発途上国への支援に生かすことが重要です。特にターゲット1や2においては、実際にそれらが効果を上げ、世界的な規模で見れば、大幅に改善される傾向にあります。

しかし、決して問題がゼロになったわけではありません。問題の解決を阻む、他の要因の検討も含め、引き続き努力が必要です。
先進国を含めた世界的な問題として根強いのは、ターゲット5の薬物やアルコールの乱用の問題です。 特に薬物に関して言えば、開発途上国で生産され、欧米を中心とする先進国で消費されるという流れがかつては一般的だったのですが、近年では、開発途上国での使用も増加傾向にあることが危惧されています。実際、2012年には国連薬物犯罪事務所(The United Nations Office on Drugs and Crime/UNODC)も「違法薬物の蔓延がMDGsの達成を阻害する」と警鐘を鳴らしています。UNODCのデータによると、2009~2018年の間に、ケシの栽培量は130%、コカ樹は34%増加しているそうです。

そんな中、アヘンの撲滅に大きな貢献をなしたプロジェクトとして知られるのがタイの「ドイトゥン開発プロジェクト」です。 このプロジェクトの成功は、ターゲット5の実現を前進させたのみならず、結果的にターゲット3、さらにはゴール1(貧困をなくそう)、ゴール8(働きがいも経済成長も)、ゴール10(人や国の不平等をなくそう)、ゴール12(つくる責任 つかう責任)、ゴール13(気候変動に具体的な対策を)、ゴール15(陸の豊かさも守ろう)などの実現への道も開きました。
そしてその開発プロジェクトの中心にあったのが、アヘンの原料となるケシ栽培からコーヒー栽培への大がかりな転換だったのです。