政治家も恐れる『週刊文春』、元社員が徹底取材で書いた「裏社史」

柳澤健氏インタビュー(前編)
平田 裕介 プロフィール

――文藝春秋を創刊した作家の菊池寛も、非常に魅力に溢れた人物として登場しますね。

「スター・ウォーズ」もアナキン・スカイウォーカーからルーク・スカイウォーカー、レイ・スカイウォーカーへと主人公が変わったり、交差したりするじゃない。そのような一種のサーガとして『週刊文春』の60年と「文藝春秋」の100年を書こうと。創設者である菊池寛の時代、三代目社長を務めた池島信平の時代、田中健五、半藤一利、花田紀凱と『週刊文春』歴代編集長それぞれの時代、新谷学の時代といった風に。だいたい、菊池寛はとんでもなく面白い人。日本麻雀連盟の初代総裁で、日本で初めての麻雀牌はなんと文藝春秋牌っていうんですよ。そんな麻雀好きの男が作った会社が、黒川弘務前東京高検検事長の賭け麻雀をスクープしちゃった(笑)。編集者の面白い話もいっぱいある会社だし、田中角栄研究から疑惑の銃弾から地下鉄サリン事件から森友文書の改竄で自殺に追い込まれた財務相職員の手記まで、事件もてんこ盛り。濃いエピソードをギューギューにつめこみました。

 

――たしかに〈面白い社史〉にもなっています。内々なものを含めて文藝春秋も社史を出していると思いますが、「マルコポーロ」のホロコースト否定記事をめぐる事件などについては触れているのでしょうか?

もちろん社史はあるし、『マルコポーロ』のことも書いてありますよ。ただし、公式見解になっていて、そこから出られていない。例えば『マルコポーロ』の事件だと、サイモン・ウィーゼンタール・センターの講師が文藝春秋にやってきて、ナチスがユダヤ人にどんなに酷いことをしたかっていう講習会を開いたんです。社員100人を集めたのかな。その時に私は『Number』にいたから出席しなかったけど、花田編集長以下、『マルコポーロ』編集部は、全員がセミナーに出席していた。その席で、西川清史さんは「私たちは“言論には言論”と教わってきました。ですから、問答無用で広告を引き上げさせるという強引なやり方には大いに疑問を持っています。その点に関してサイモン・ウィーゼンタール・センターはどのようにお考えなのでしょうか?」と発言した。その部分は社史には書かれていません。社史は公式見解しか書けないからおもしろい物にはなり得ない。『2016年の週刊文春』は、一種の稗史であり、文藝春秋の公式見解から解き放たれた社史なんです。だからこそ、西川さんの発言も書きました。

もうひとつ〈面白い社史〉になった要因は、文藝春秋が突出してユニークな会社であるということ。日本という国家と密接な関わりを持っているとでもいうか。時の総理大臣を辞任に追い込んだとか、元少年Aの住まいをつきとめて直撃したなんてエピソードがゴロゴロあるわけですよ。そんなことは、他の会社ではまずありえない。

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