北海道浦河町に、精神疾患を抱えた当事者たちが悩みを共有しながら暮らす、コミュニティ〈べてるの家〉があります。互いに支え合い、病院に入ることなく町で働き、地域と共に生きる。その取り組みの場所を、精神科医の星野概念さんと訪れました。

星野概念(ほしの・がいねん)
1978年生まれ。精神科医、ミュージシャンなど。総合病院に勤務し、在宅医療や救命救急などを担当。発酵や漢方からもヒントを得て、様々な心の不調と向き合っている。近著に、いとうせいこうとの共著『自由というサプリ』。

語ることの文化を、回復のキーワードに

作業は楽しく喋りながらが基本。施設立ち上げ時から行う日高昆布の製造販売の他、農福連携事業として、いちごのヘタ取りも行う。

北海道南部沿岸の浦河町。人口1万2000人ほどの過疎の町にある〈べてるの家〉には、全国から重い精神疾患を抱えた人たちがやってくる。しかし、ここは病院ではない。統合失調症による幻聴や妄想があっても、アルコール依存症やうつ病などがあっても、病院ではなく地域で生きていく、それを叶えるための活動拠点である。脆さを抱えた人たちによって成り立つ組織の毎日は簡単ではなく、いつも問題だらけだ。パニックになって家具を壊したり、鍵を飲み込んだり、道端で寝たり。警察のお世話になることもしばしば。活動の要となる日高昆布の製造販売や、いちごのヘタ取り作業にしても、当日の朝にならないと誰が出勤してくるのか分からない。なのに、全然ピリピリしていない。

Tシャツに〈べてる〉のロゴを刺繡する女性チーム。BGMは長渕剛。

「自分がいる病院や施設と違って、精神疾患がある人たちが伸び伸びとしている。それが実際、どういう場所なのかを体感したかった」と言う精神科医の星野概念さん。当事者スタッフの案内で作業所やグループホームを回り、名物と言われるミーティングにも参加させてもらった。

コマの得意技を披露してくれたメンバー。ミーティング中もたまにやっていました。

星野さんが言う、当事者たちの“伸び伸び”の一端にあるのが、月に100回以上は開催されている、多様なミーティングの存在だ。ここでは各々が、統合失調症ドラマチックタイプ、精神バラバラ病、明るい躁うつ病笑い型など、医学的な診断名でなく自分で考えた病名で自己紹介し、幻聴を“幻聴さん”、頭に浮かんでくる思考を“お客さん”と、親しみを込めて呼ぶ。

調子が悪いことをバラバラとか、ぱぴぷぺぽなんて言っていると、深刻さが笑い飛ばされる。こうして病気の苦労や悩みを公表して、一緒に考え、支え合う。日々のあらゆる些細な問題がミーティングの題材となり、弱さを共有することが絆となり、仲間が増えて場が豊かになる。だから〈べてる〉では、病気であるほど“順調”という。